細胞内電位記録と同等の信号強度が得られる有機トランジスタセンサーを開発:医療技術ニュース
東京大学、東京女子医科大学、早稲田大学は、共同開発した有機トランジスタのセンサーマトリクスにより、細胞内電位記録と同等の信号強度の心筋細胞電位を細胞外から多点で同時計測することに成功した。
東京大学は2021年9月21日、高導電性材料を用いた有機トランジスタのセンサーマトリクスを作製し、電気穿孔法を用いて、細胞内電位記録と同等の信号強度の心筋細胞電位を多点で同時に計測することに成功したと発表した。同大学と東京女子医科大学、早稲田大学の共同研究による成果だ。
有機トランジスタ細胞電位センサーは、細胞の外側から簡単に多点計測ができるという利点がある。一方で、従来のセンサーは、針を挿入して細胞膜の内側の電位を直接測定する細胞内電位記録法に比べると、得られる信号強度や情報量の面で劣っていた。
今回開発した細胞電位センサーは、電圧をかけることで物質が細胞膜を通り抜ける状態にする電気穿孔法を利用している。開発した有機トランジスタのチャンネルには、導電性ポリマーの「PEDOT:PSS」を使用しており、1mA程度の大電流を流すことが可能だ。そのため、細胞電位の測定と同時に細胞に電流を流して、細胞膜に孔を形成しながら心筋細胞電位の計測ができる。
また、従来の有機トランジスタを用いた細胞電位センサーで計測できる心筋細胞の電位が1〜1.5mV程度であるのに対し、今回開発したセンサーでは46mVと高い信号強度を得ることができた。
さらに、有機トランジスタを4×4にマトリクス化して心筋細胞を埋植することで、心筋細胞電位の多点同時計測にも成功した。
これまで、細胞内電位記録と同等の信号強度の心筋細胞電位を細胞外から計測するには、高電圧やレーザーなどが必要だった。今回の研究により、有機トランジスタ単体で、電気穿孔しながら心筋細胞電位を計測できるようになった。
今回の研究で用いた有機トランジスタは、基板に印刷して製造が可能だ。今後は、薄膜化したセンサーマトリクス基板にセンサーを印刷することで、細胞内電位記録システムを低コストで作製できると期待される。
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