高分子を効率良く細胞内へ届ける、細胞治療向けの細胞内物質導入機器を開発:医療技術ニュース
早稲田大学は、導電性高分子で被膜した金属製ナノチューブシートを用いて、安全かつ効率良く細胞内に物質を導入する細胞用電動ナノ注射器「複合ナノチューブ電気浸透流ポンプ」を開発した。
早稲田大学は2021年9月10日、導電性高分子で被膜した金属製ナノチューブシートを開発し、電気をかけると物質輸送が3倍以上促進する電気浸透流ポンプ現象を発見したと発表した。この現象を利用した細胞用電動ナノ注射器「複合ナノチューブ電気浸透流ポンプ」が、安全かつ効率良く遺伝子やタンパク質を導入できることを確認した。理化学研究所との共同研究による成果だ。
研究グループはこれまでに、ナノチューブを配列した薄膜(シート)を開発し、これを細胞に挿入して物質を届けるナノ注射器を開発している。今回、このナノ注射器を改良し、導電性高分子を金属製ナノチューブに被膜した。これにより、正の電圧を印加した時のみイオンが流れるようになり、一方向にイオンの流れを制御できるようになった。
また、細胞への複合ナノチューブの挿入には、スタンプシステムを採用した。HeLa細胞を用いて生存率を確認したところ、従来の金属製ナノチューブでは30分後に1%の細胞しか生存しないが、複合ナノチューブでは約95%以上の高い生存率を示した。
カルセイン低分子、GFPタンパク質、DNAプラスミドを細胞へ導入した実験では、いずれも±50mVの印加で導入効率が促進した。カルセイン低分子は導入効率99%、細胞生存率96.8%、GFPタンパク質は導入効率84%、細胞生存率98.5%だった。DNAプラスミドでは、トランスフェクション率が約10%だった。
細胞治療は、細胞を体外で加工、培養、評価した後、ヒトなどに機能性細胞を移植して疾病を治療する。研究グループは、再生・細胞治療市場において、細胞加工や設計の技術開発に取り組んでいるが、細胞内に外来性物質を導入する従来の手法は、導入効率や細胞生存率、効率性などで課題があった。
今回、複合ナノチューブ電気浸透流ポンプを開発したことで、タンパク質や抗体などの高分子を効率良く細胞内へ届けることが可能になった。安全かつ高効率で物質を導入できるほか、導入物質の大きさや形状を問わないため、再生医療や細胞医療への応用が期待できるとしている。
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