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米国の医療DXを支えるブロックチェーンと分散台帳はオバマ政権時代からの積み重ね海外医療技術トレンド(75)(5/5 ページ)

本連載の第23回や第65回で触れたように、米国の保健医療行政機関がDX(デジタルトランスフォーメーション)施策を本格化させる中、変革ツールとしてブロックチェーン/分散台帳技術が注目されている。

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COVID-19パンデミックは医療ブロックチェーンの実装を加速させるか

 FDAは2020年4月、COVID-19による公衆衛生上の緊急事態に対応するため、「COVID-19公衆衛生緊急時下における医薬品サプリチェーン安全保障法の特定の要求事項からの例外および除外 - 業界関係者向けガイダンス」(関連情報)を公表した。これにより、COVID-19緊急対応を目的とした医薬品などは、暫定的にDSCSAの適用対象外となった。

 その一方で、COVID-19パンデミックのような緊急事態に対応するための支援ツールとして、ブロックチェーン利用を検討する動きも進んでいる。例えば、2021年3月4日、モデルナとIBMは、COVID-19ワクチンのサプライチェーンおよび輸送データの共有において連携する計画を発表した(関連情報)。両社は、政府機関や医療機関、ライフサイエンス組織、個人の間におけるセキュアな情報共有を加速させるのに、技術を役立てることができる手法を特定し、ワクチンプログラムの信頼性を向上させ、ワクチン接種比率を高めることによって、地域感染を抑制することを目的としている。

 IBMによると、米国内におけるケイパビリティの有用性を調査するために、以下のような点に焦点を当てるとしている。

  • 潜在的なサプライチェーンの混乱に取り組むために、エンドツーエンドのトレーサビリティーを提供するワクチン管理。本ソリューションは、政府機関や医療機関が、製造施設から接種サイトに至るまで、複雑なCOVID-19サプライチェーンを介して流通する個々のワクチンバッチに関するデータを迅速かつ安全に共有することを可能にする
  • ブロックチェーン技術上に構築されたデジタルヘルスパスは、安全で、検証可能で、信頼された方法で、個人が自分の個人健康情報のコントロールを維持し、共有するのに役立つよう設計されたソリューションである。組織は、検査結果、ワクチン接種記録、体温チェックなど、組織が指定した基準に基づいて、従業員や顧客、旅行者の健康証明書を検証するためのソリューションを利用することができる

 医薬品サプライチェーンの動きに対して、米国の医療機器業界では、FDAが、1993年8月、一意の機器固有識別子(UDI)による製品トレーサビリティー管理に関するルールを制定し、標準化されたコードを利用した製品の有効期限やロット番号の表示、データベースへの登録などが義務化されている。欧州の医療機器業界では、本連載第69回で触れたように、2021年5月26日、「医療機器規則(MDR)」の適用が始まり、EU域内統一の機器固有識別子(UDI)/機器登録などを管理する「EUDAMED」のシステムが運用されている。

 欧州の医薬品業界では、EU偽造薬対策指令(FMD)(関連情報)により、2019年2月より、CSDSAに類似した医薬品包装の識別と認証の義務化がスタートし、欧州医薬品検証システム(EMVS)が運用されている。

 米国、欧州のいずれも、医薬品・医療機器サプライチェーンの効率化・自動化に向けての制度的仕組みづくりが進行し、ブロックチェーン/分散台帳技術の実用化に向けた基盤も整いつつある。

 このような欧米の動きと比較すると、日本の医療機器や医薬品のサプライチェーンに関わるステークホルダーは、目前のCOVID-19緊急対応に忙殺され、次世代を見据えた新技術によるイノベーションの域までたどり着けないのが現状だろう。金融など、日本国内の異業種が有するブロックチェーン/分散台帳技術の経験/ノウハウを活用するなど、オープンなアプローチが必要とされるのではないだろうか。

筆者プロフィール

笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)

宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。

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