製造現場のデジタル変革、コニカミノルタが失敗からつかんだ成功のカギ:スマートファクトリー(3/3 ページ)
「現場力とデジタル化の融合」を掲げ「生産DX(デジタルトランスフォーメーション)」に取り組むのがコニカミノルタである。現場力とデジタルマニュファクチャリングを組み合わせた新たなモノづくりの確立に取り組む現状や苦労について、コニカミノルタ 上席執行役員 生産・調達本部 本部長の伊藤孝司氏に話を聞いた。
歩留まり20%向上、廃棄ロス2000万円削減などの成果
これらの取り組みの成果の1つが、射出成形機の良品率向上への取り組みである。そこでは、ある高機能部品の製造を行う中で、射出成形機の良品率が課題となっていた。射出成形機の品質は温度や湿度などの環境変動にも大きく影響を受ける。さらに高機能部品であるため、トレードオフの関係なども含む50以上の品質項目を規格内に収める必要があった。従来はこうした調整を熟練技術者がトライ&エラーを重ね品質を維持していたが、属人化も進み、担当者によっては、歩留まりがなかなか上がらない課題を抱えていた。
そこで、射出成形機からさまざまな生産情報や稼働情報を取得し、製造条件のデータと品質データをひも付け、数理モデル化を行った。この数理モデルにより、インプットとしての製造条件と、アウトプットとしての品質の相関性を見つけ、製造条件を入力することで品質の予測値を導けるようにした。
そして、この数理モデルを活用することで、製造条件を膨大な回数、高速で試行錯誤できるようになり、歩留まりを最大化する製造条件を自動で探索できるようにした。こうして導き出された条件を設定すれば、一度の製造条件調整で歩留まりを改善できる。さらにこの仕組みは熟練技能に依存しない仕組みであり、初心者でも調整可能だ。
「この取り組みは社内的にもデータ活用の成果として大きなインパクトをもたらした。最終的に歩留まりは20%向上させることができた。廃棄ロスも年間で約2000万円削減できるなど、目に見える成果が生まれている」と伊藤氏は語っている。
コニカミノルタではこうしたさまざまな課題解決の成果を取りまとめ、テーマ設計のプロセスを標準化した「虎の巻」とし、社内での水平展開を行えるようにしている。課題の解決につなげ「虎の巻」化している事例は64あり、さらに拡大中だとしている。また、汎用化されたこれらの解決手法は自社内だけでなくサプライヤーにも展開し、サプライチェーン全体の効率向上にもつなげていく考えである。
三河新工場で新たなモノづくりを発信へ
今後は、現場発の課題解決の種類を増やしていくと共に、これらを組み合わせた部門横断型の枠組みなどにも取り組んでいく方針だ。「現場改善を積み上げてさらにもう一段進んだ原価低減を進めるためには、生産部門だけでは難しい部分もある。こうした部分は設計開発部門などと一緒に進めていく必要がある。その際、横断型のワーキンググループ(WG)を作り、共同で進めていく。開発生産連携や自動化、データサイエンスなど、現在も複数のWGで活動を進めているところだ」と伊藤氏は述べる。
さらに、こうした生産DXのノウハウを詰め込み新たなモノづくりの確立に大きな役割を果たすと見られているのが、2021年4月に稼働開始した三河新工場である。三河新工場では、多品種少量化やマスカスタマイゼーションなどが注目される中、小ロット製品でも効率的に生産できる仕組みが特徴だ。自動化すべき領域と人が取り組むべき領域を融合させた生産ラインとし、1つのラインでさまざまな製品を作れる仕組みとしている。また、マザー工場としての位置付けで、開発、生産、現場が一体となった取り組み体制なども構築している。
伊藤氏は「新たなモノづくりの姿を作り出す場としての役割と共に、先述した推進リーダー役を含めた日本のモノづくり人材育成の場としての役割も期待している。以前は日本の人材は海外工場に教えにいく立場だったが、工場の海外流出が進んだ中で、国内で工場の現場でモノづくりを運営する経験を持った人材が少なくなってきている。こうした人材をもう一度育成していくという面でも重要だと考えている」と新工場の位置付けについて語る。
当面はこの三河新工場での新たなモノづくりの確立と発信を強化していく方針だ。「現場力とデジタルマニュファクチャリングを組み合わせて進めてきたノウハウを三河新工場には盛り込んでいる。これらを生かしてさらに新たなノウハウなどを生み出しつつ、それを海外工場にも展開していく。こうした事例をより早く生み出していきたい」と伊藤氏は今後の抱負について述べている。
コニカミノルタ 伊藤氏がITmedia Virtual EXPO 2021 秋に登壇!
本稿に登場したコニカミノルタ 伊藤氏が、2021年9月1〜30日に開催中の「ITmedia Virtual EXPO 2021 秋」(アイティメディア主催)のスマートファクトリー EXPOの基調講演「『現場力とデジタル化の融合』による新たなモノづくりへの挑戦」で登壇しています。以下のWebサイトからぜひご覧ください。
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