生産を開始する前に設計者がすべきこと:アイデアを「製品化」する方法、ズバリ教えます!(10)(3/3 ページ)
自分のアイデアを具現化し、それを製品として世に送り出すために必要なことは何か。素晴らしいアイデアや技術力だけではなし得ない、「製品化」を実現するための知識やスキル、視点について詳しく解説する連載。第10回は、生産開始前に“設計者がすべきこと”を取り上げる。
中国で多発する不良とその原因
以下に、中国で多発する不良に関して2つ実例をお伝えする。中国で発生する不良はとても基本的なところに原因があるものがほとんどだ。よって、これらの不良の原因とその対策から、“設計者が生産前に製造ラインですべきこと”の基本を理解してもらえると思う。
適切な位置に取り付けられていないガスケット
図5の基板の赤色矢印で示した枠内に導電性ガスケットを取り付けなければならない。作業者もそれをもちろん理解している。しかし、少しずれていても大きな問題は起きないだろう、という作業者の希望的観測(これも中国人の国民性)からこのようになってしまっている。
このようなケースの対策としては、(1)作業標準書に取り付け位置の記載があるか確認する、(2)目視かカメラを用いインライン検査を行う、(3)治具を作製し枠内にしか取り付けられないようにする、などが考えられる。いずれにせよ、生産開始前に、このような不良が発生する可能性がないことを製造ラインの製造技術の担当者と話し合い、その対応をしておくことは設計者の仕事である。
︎ビス留め順を指定していなかった板金部品の固定
液晶モジュールがあり、これに横長の板金部品を10本のビスで固定することで、そのモジュールは完成する。ところが、この板金部品が若干反っていたせいもあり、ビス留め順が変わってしまったことによって、一部のビスが浮いてしまうという事態が起きた。全てのビス留め順のパターンでビス浮きの検証をしているわけではないため、ビス留め順の違いによってビス浮きの不良が発生する可能性がゼロであることはあり得ない。よって、ビス留め順は指定する必要があったのだ。日本の優秀な製造ラインでは、もしビス留め順を設計者が指定していなければ、製造技術の担当者が順番を決めて設計者の了承を得て作業標準書に記載する。しかし、中国では特に指定がなければ、作業者が自分のやりやすい順番でビスを留める。そうなると、不良が発生する場合があるのだ。このようなケースの対策としては、(1)ビス留め順を決める、(2)作業標準書に記載する、(3)量産開始前に作業を確認する、などが考えられる。生産開始前に、これらを製造ラインの製造技術の担当者と決めておくのは設計者の仕事である。それ以外にも次の方法がある。
- 板金部品にビス留め順を刻印する
- プロジェクターで板金にビス留め順を投影する
- インライン検査でカメラを用いビス留め順を監視し、間違えればアラートを出す
- インライン検査でビス浮きを判断する
導電性ガスケットの位置の話に関しては、製品の組み立て時に取り付け位置が指示されていないことはあってはならないし、正規の取り付け位置以外には取り付かないようにしたい。ビス留め順の話に関しては、製品の組み立て時に部品の取り付け順が決まっていなければならないし、それを作業者に明確に指示する方法をとっておきたい。そして、これらの両方に関して、もし取り付け作業を間違ってしまった場合には、インライン検査によって不良と判別できる手段を持っておくことが最もよい。
設計者の仕事は設計を行い、その後部品メーカーが作製した部品を確認することだけではない。自分の部品が不良なく生産されるような製造ラインが構築されているかの確認を行うことも大切な仕事であることを忘れてはならない。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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