COVID-19は日本のモノづくりに何をもたらしたのか、マクロ指標から読み解く:ものづくり白書2021を読み解く(1)(5/5 ページ)
日本のモノづくりの現状を示す「2021年版ものづくり白書」が2021年5月に公開された。本連載では3回にわたって「2021年版ものづくり白書」の内容を掘り下げる。第1回ではCOVID-19の影響を色濃く受けた日本のモノづくりの現状についてまとめる。
設備投資も減少傾向に
日本全体の設備投資額の推移をみると、2019年後半に引き続き、2020年にもCOVID-19の感染拡大などの影響により減少となった(図18)。
製造業においても、設備投資額は2012年以降は減価償却費を上回っているものの、足元では減少傾向がみられる(図19)。設備投資額は、2019年まで増加傾向だったが、2020年はコロナ禍の影響も受けた業績低迷により減少。先行き不透明な状況が続くことにより、今後も設備投資は控える傾向にあるとみられる。
日本銀行「全国企業短期経済観測調査」の業況判断DIおよび生産・営業用設備判断DIをみると、2020年にはCOVID-19の感染拡大などの影響により景気判断が急速に悪化し、同年第2四半期にはリーマンショック以来11年ぶりの低水準となり、設備の過剰感が強まった(図20)。
今後3年間の設備投資の見通しの調査によれば、直近の海外設備投資の「増加」を除き、「増加」または「やや増加」の割合が減少し、「減少」または「やや減少」の割合が増加している(図21、22)。
このようにCOVID-19の感染拡大は日本の製造業の業況に大きな影響をもたらした。今後も先行き不透明な情勢は続くとみられ、そのような状況下では設備投資が見送られる傾向もある。
日本の製造業を取り巻く経済の状況は大きく変化しているが、このような状況を踏まえて2021年版ものづくり白書では日本の製造業がニューノーマルで生き残るための経営戦略の構築に必要な観点として「レジリエンス」「グリーン」「デジタル」という3つを列挙している。これらについては第2回で詳しく見ていきたい。
筆者紹介
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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