「工場の生産性向上」と一言でいっても、幾つものアプローチがある:いまさら聞けない自動車業界用語(15)(3/3 ページ)
今回のテーマは「工場の生産性改善」です。日々進められている工場の改善。具体的にどのように取り組んでいるのかについて説明します。
省人化と少人化
1人当たりの出来高を上げるには、省人化があります。最初に例に挙げたラインでは3人で作業を行っていましたが、2人で行えるようにすれば1人当たりの出来高を上げることができます。ラインに投入される人員が少なくなって人件費が安くなれば製造原価が下がり、生産性を上げることができます。
省人化を行う場合は、自動設備の導入や作業標準を見直していきますが、いくら作業が減ったとしても1人分の作業が減らないと実際に人を減らすことはできません。3人分から2.5人分の作業に変わったとしても、実際には3人の作業者が必要になるためです。省人化は、1人分の作業をなくすまでやり切ることが求められます。
生産性をさらに高めるためには、省人化を1つ先に進めて「少人化」しなくてはいけません。「少人化」とは生産量に応じて、作業者を調整できるラインにすることです。生産量は毎月、毎週、毎日変化しますので、多い生産量にあわせて人員を配置すると、少ない生産量の日には人員のムダが発生してしまいます。
人数に応じた作業標準、複数の機械を使える作業員の教育、人員配置の変動に柔軟に対応できる設備レイアウトなどを作り込むことで、生産量に最適化した人員配置ができる「ムダのないライン」にすることができます。
こうした生産性改善の取り組みは、工場のQC活動で多く行われています。QC=Quality Controlは品質管理のため製品の品質維持、改善のためだけの活動に聞こえるかもしれませんが、顧客満足度(CS)と従業員満足度(ES)の向上、納期やコストなどの問題解決も含まれており、工場の生産性改善になくてはならない活動です。工場の現場から自主的に推進するQC活動は、日本の製造業の品質向上や生産性改善に大きな役割を果たしています。
生産性改善は泥臭いけれど
原価低減の回で取り上げた、大部屋活動も工場の生産性改善に大きく寄与しています。大部屋活動は目的達成のため、設計から生産技術、製造、品質管理など組織を超えて関係者が集まり、課題解決に取り組む活動です。チーム間、部門間での方針や情報を素早く共有でき、意思決定をスムーズに行うことで工場の生産性改善をスピーディーにやり遂げることができます。
工場の実際の生産性改善はかなり泥臭いものが多く、なかなか一筋縄ではいきません。現地現物での確認、データを使った検証、現場作業者を含めた関係者との交渉や協力依頼など手間のかかることが多いです。しかしながら、細かい積み重ねが生産性向上につながり、会社としての利益を押し上げています。
「今日もQC活動がある……通常業務もたまっているのに面倒くさいなあ」。そんなことを思いがちですが、日本の自動車産業がここまで成長できたのも自主的な改善活動の成果です。周囲の仲間と協力し合いながら、毎日少しずつでも生産性向上に取り組んでいきましょう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 日産の工場はどう変わるのか、国内外でIoT本格導入とロボット活用拡大
日産自動車は2019年11月28日、横浜市の本社で会見を開き、次世代の自動車生産のコンセプト「ニッサンインテリジェントファクトリー」を発表した。 - 日産が新車生産で発生したアルミ端材をリサイクル、新車向けの部材で再出荷へ
日産自動車は2021年1月22日、グローバルモデルでアルミニウム製部品のクローズドループリサイクルプロセスを初めて適用すると発表した。同プロセスは、生産時に発生した廃棄物やスクラップ、回収した自社の使用済み製品を、品質を維持した材料として再生し、自社製品の部品に採用する手法だ。 - 日産が金型なしでボディーパネルを生産、表面はそのまま塗装できる仕上がり
日産自動車は2019年10月2日、同社追浜工場(神奈川県横須賀市)で記者説明会を開き、金型を使用しない金属部品の成形技術を発表した。 - 日産がCFRP成形の課題をCAEで解決、量産車での採用へ前進
日産自動車は2020年9月3日、量産車でのCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製部品の採用に向けた取り組みを発表した。CAEを活用したシミュレーションによってCFRP製部品の金型設計を効率化するとともに、リードタイムの短い工法での量産にめどをつけた。 - 公差で逃げるな、マツダ「SKYACTIV-X」がこだわる精度と品質
マツダが新開発のSKYACTIV-Xにおいて重視したのは、部品の高精度な加工によって誤差の許容範囲を狭めたばらつきのないエンジン生産と、SPCCI(火花点火制御式圧縮着火)の機能の品質を、エンジンを組み上げた状態で抜き取りではなく全数で保証する評価技術だ。SKYACTIV-Xの生産ラインの取り組みを紹介する。 - デザイナーの意図を量産ラインに、金型が支えるマツダの魂動デザイン
新たにスタートを切ったマツダの新世代商品群では「アートと呼べる美しさの量産」に向けて、デザイナーの意図を生産技術に落とし込むためのさまざまな取り組みがあった。 - 自動車メーカーの稼働調整になぜ注目? 工場の操業を左右する「生産計画」
今回は工場の生産計画と内示について部品メーカーの視点から解説します。日々変動する生産計画ですが、欠品させずに利益を生み出すには厳密な管理や仕組みが必要です。工場を中心に関わる部門も多いと思いますので、自動車業界の方はぜひとも覚えておきましょう。 - 品質異常が起きやすいのはどんなときか、再発させないために何をすべきか
2回に分けて「品質」に関わる用語を説明しています。前回は品質異常の未然防止について解説をしました。今回は実際に起こる品質異常と、その対応について紹介します。 - 品質は工場だけでなく部門横断で作り込む、「未然防止」への正しい評価も
今回から2回に分けて「品質」に関わる用語を説明します。世界に誇る日本の自動車の品質は、どのように作りこまれているのでしょうか。