パナソニックが“コケ”でこんもり覆われた6足歩行ロボットを作った理由:イノベーションのレシピ(2/2 ページ)
パナソニックは2021年7月6日、同社のロボティクス技術などを活用して「Aug Lab」の2020年度成果発表会を開催した。“コケ”で装飾された6足歩行ロボット「UMOS」など、動植物との共生をテーマとした作品を発表した。
霧吹きで照明を明るくするコケの“スイッチ”
MOS Interfaceはコケ(ヤマゴケ)周辺の湿度と照明器具を連動させる仕組みの作品である。コケの下には湿度センサーが設置されており、霧吹きなどで水分を与えると反応して、無線接続された照明装置が明るくなる。湿り気を得たヤマゴケが「喜んでいる」様子を照度で表現しているという。反対に、コケ周辺が乾燥すると、照明は明るさを落とす。
開発の意図についてパナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室の安藤健氏は、「照明のオン/オフはスイッチの切り替えで行うことが一般的だ。しかし、このスイッチというインタフェースを『制御』の対象ではなく『共生』の対象にすることで、自然との共生をより身近で実現できるのではないかと考えた。当然、水を与えなくとも季節や天気などでコケ周辺の湿度は変化するので、それに伴って部屋の明るさも変わる。自分だけでなくヤマゴケにとっても良い環境を与えるにはどうすればよいかなど、日常で『共生』を意識するきっかけにしてほしいという願いを込めた」と語った。
また、UMOSとMOS Interfaceは、ドイツの生物学者ユクスキュルが提唱した「環世界」というアイデアをベースに開発したとも説明する。環世界とは、あらゆる生物は固有の見方で世界を捉えており、それぞれ異なった世界を経験しているとする考え方だ。これに基づいてAug Labでは、動植物による世界の捉え方を理解して共生の可能性を探るプロジェクトを「環世界インタフェースプロジェクト」と呼んでおり、今回は「コケから見た世界」(安藤氏)を表現しようとしたのだという。
Waftは、日常生活ではあまり意識しない「水と空気」の存在やふるまいを可視化する、というコンセプトで開発したインスタレーション・アートである。
天面が空いた横長のガラス製水槽内にはミスト(霧)が充填されており、水槽前を人が横切ると、天面から流入する空気の流れが変化してミストにも乱れが生じる。モーターやアクチュエータなどを使わずに、「人間の動きに伴い生じる自然の動きの美しさを強調して可視化する設計にした」(安藤氏)という。なお、ミストは水槽背面に設置した超音波方式の発生装置で生成後、水槽内に流れ込む仕組みで、ここにはパナソニックが特許出願中の技術が活用されている。
安藤氏は「多くの人は、普段の生活の中でコケの種類を意識したり、空気のふるまいを気にしたりすることはない。それをあえて可視化することで、人間も自然の中で生きているのだということを実感できる。自然との共生の重要性を、見る人に伝えられるのではないか。今後も人と人、人と自然の関係を考えさせるモノを開発したい」と語った。なお、各作品の製品化については未定とする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 人の感性や能力を拡張、パナソニックのAug Labが研究パートナー募集
パナソニックは2020年4月23日、2019年に設立した「人間の能力や感覚の拡張」をテーマとした学際的バーチャルラボ「Aug-Lab」の取り組みについて、メディア向けオンラインセミナーで紹介。1年間の活動成果を発表するとともに、さらなるオープンイノベーションを加速させるために、新たな共同研究パートナーの募集を発表した。 - 家電のアドオンをマイコンで自作、パナのモノづくりプロジェクトが目指す未来
パナソニックは2021年3月12〜25日にかけて、同社のデザインスタジオであるFUTURE LIFE FACTORYの活動を紹介する「DIG UP! あなたと考えるプロトタイプ展」を東急プラザ銀座で開催した。身の回りの素材や市販の電子部品を使ったモノづくりを促進する「D+IO」などのプロジェクトの成果を披露。 - イノベーションは制約からの解放で生む、ソニーが捉える5分野11種類の制約とは
オンライン展示会「バーチャルTECHNO-FRONTIER2021冬」(2021年2月2〜12日)のオンライン講演にソニー 主席技監の島田啓一郎氏が登壇。「ニューノーマル時代の生活文化と顧客価値と技術革新と産業創出」をテーマとし、コロナ禍のよる生活の変化とそれに伴い重要性を増す技術について語った。本稿ではその内容を紹介する。 - リコー発スタートアップに見る、新規事業の育て方とアフターコロナのモノづくり
リコー発のスタートアップであるベクノスは2020年9月16日、第1弾製品としてペン型の全天球カメラ「IQUI(イクイ)」を発表した。本稿では、ベクノスが開発した製品とともに、リコーの新規事業への取り組みとコロナ禍におけるモノづくりの在り方について紹介する。 - パナソニック新規事業の可能性を広げるBeeEdge、1号案件は“ホットチョコ”
パナソニック家電事業部門で、新規事業創出の機運が高まっている。同社で営業やマーケティング、商品企画に携わった浦はつみ氏は、約20年勤めていた同社を休職しスタートアップ「ミツバチプロダクツ」を設立。2018年11月1日より事業を開始した。