リコー発スタートアップに見る、新規事業の育て方とアフターコロナのモノづくり:イノベーションのレシピ(1/2 ページ)
リコー発のスタートアップであるベクノスは2020年9月16日、第1弾製品としてペン型の全天球カメラ「IQUI(イクイ)」を発表した。本稿では、ベクノスが開発した製品とともに、リコーの新規事業への取り組みとコロナ禍におけるモノづくりの在り方について紹介する。
リコー発のスタートアップであるベクノスは2020年9月16日、第1弾製品としてペン型の全天球カメラ「IQUI(イクイ)」を発表した。本稿では、ベクノスが開発した製品とともに、リコーの新規事業への取り組みとコロナ禍におけるモノづくりの在り方について紹介する。
4眼の光学系を新規開発
民生用全天球カメラは、リコーが2013年11月に「THETA」を発売して初めて生まれた。ベクノスは、リコーでこの民生用全天球カメラ事業を立ち上げたメンバーが、カーブアウト(外部資本を受けて事業を切り出して独立させる手法)により作ったスタートアップ企業である。2020年3月にペン型全天球カメラの商品化を発表し、今回正式に「IQUI」というブランド名で、同年10月1日に日本、中国、米国、英国、ドイツ、フランスで発売することを発表した。
「IQUI」の開発コンセプトは「生活に溶け込む全天球カメラ」である。ベクノス 代表取締役 CEOの生方秀直氏は「生活に溶け込むというのは、主に2つの面がある。1つはハードウェアデザインが生活空間に適合するかということである。もう1つが、ユーザー体験が自然な形で生活の一部として作り込むことができるかという点である。全天球カメラを日常の中でいつでも使えるようにしたいと考えた」と語る。
ハードウェアデザインとしては、持ち運びがしやすいコンパクトなペン型をベースに考えたという。しかし、ペンのサイズにさまざまな機能を盛り込むには大変な苦労がある。生方氏は「今回の新製品は完全な新規開発となるので、要素技術が何もない中で作り上げる苦労があった。特に光学系の設計には非常に大きな苦労があった。何十回も構想設計を行っては廃棄することを繰り返した。そこで最終的に、天面に1つ、側面に3つという4眼の光学系にたどりついた」と生方氏は苦労について述べる。
また、これらのカメラから入る画像データの処理を行う画像エンジンは既存のSoC(System-on-a-Chip)をカスタム開発した。これにより、レンズ部の直径が19.7mm、グリップ部の直径が16mm、全長が139mmで、質量が約60gの軽量でコンパクトな形状ながら高い映像処理のパフォーマンスを発揮できるようになったという。複雑な処理を行うため熱処理は大きな問題となるが「発熱対策の観点から動画は最長で30秒間の撮影に制限した。その他、規制範囲内に収まるようにさまざまな熱対策を施している」と生方氏は述べる。
操作用のボタンは、電源ボタン、シャッターボタン、写真と動画モードの切り替えボタンの3つのみで、他の設定などはスマートフォン端末との連携で行う。コンパクトさとデザイン性を重視したため、充電のための有線接続コネクターも「IQUI」本体には装備せず、底面には給電用のピンを露出させただけとしている。これに付属のUSBコネクターを接続して、スマートフォン用ACアダプターとUSB-Cケーブルで充電する。
アプリ「IQUISPIN」で生活に溶け込む簡単さを実現
ユーザー体験の面で生活に溶け込むという点に関しては、アプリ「IQUISPIN」を用意。「IQUI」で撮影した写真に動きをつける「モーション」や、楽しい素材を3Dで写真に付加する「エフェクト」、写真の色調を変更する「フィルター」機能などを用意し、全天球画像を撮影後も楽しめるようにしている。また「撮影後に全天球画像を楽しめるデバイス環境が限定されることが全天球カメラ市場における課題」(生方氏)であるため、「IQUISPIN」では撮影した全天球画像を、正方形のmp4ショートビデオに変換できるようにした。mp4映像であればSNSなどを通じて手軽に共有できるため「まずは全天球カメラで撮影できる画像や映像の楽しさを広げていきたい」と生方氏は語っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.