三菱電機は検査不正の連鎖を断ち切れるか、杉山社長が新体制に託し辞任へ:品質不正問題(2/2 ページ)
三菱電機は長崎製作所が製造する鉄道車両用空調装置などにおける不適切検査の調査結果について説明。1985〜2020年にかけて約80社に納入した約8万4600台の鉄道車両用空調装置など対象。同社 執行役社長の杉山武史氏は、新たな経営トップの下での調査実施と再発防止に向けて社長を辞任する方針を明らかにした。
データ流用を不自然に見せないためのプログラムも
長崎製作所における不適切検査の詳細については三菱電機 常務執行役 社会システム事業本部長の福嶋秀樹氏が説明した。まず、不適切検査の対象になったのは、鉄道車両の屋根もしくは床下に搭載される鉄道車両用空調装置と、鉄道車両の床下に搭載され、大気から吸い込んだ空気を圧縮し、ドア・ブレーキなどの空気制御機器に空気を供給する鉄道車両用空気圧縮機である。
これら製品の検査は、初号機開発の段階で行う「形式検査」と、量産品を納入する際に行う「受渡検査」に分かれる。鉄道車両用空調装置では、形式検査と受渡検査の両方で、鉄道車両用空気圧縮機では形式検査で不適切検査が行われた。また、不適切検査の項目としては、鉄道車両用空調装が受渡検査で「冷房能力・消費電力」「暖房能力・消費電力」「防水」「絶縁抵抗・耐電圧」「形状・寸法」、受渡検査で「過負荷」「振動」の7項目、鉄道車両用空気圧縮機が形式検査におけるJRIS規定の8項目、三菱電機独自規定の15項目が対象になっている。
福嶋氏は「今回の不適切検査では、顧客との契約内容で定めた試験を実施し、その検査結果を報告すべきところを、試験を実施しないもしくは別の試験を実施して良否判定を行ってから、形式試験時のデータを用いて受渡試験の結果として提出するというパターンが共通していた。また、試験の省略や別の試験でも安全性と性能を確認できていると見なす一方で、この試験で十分であることについて顧客の了解を得ておらず、了解を得る努力をした形跡も見られなかった」と説明する。
なお、試験データを捏造するプログラムが利用されていたという一部報道があったが、鉄道車両用空調装置の冷房能力・消費電力と暖房能力・消費電力の試験において、形式試験のデータの流用が不自然にみえないように数値のバラツキを与えるという内容で、1990年からこのプログラムが用いられていたという。現在までの調査で判明しているのはこのプログラムだけだ。
不適切検査の個別の内容としては、鉄道車両用空調装置の冷房能力・消費電力と暖房能力・消費電力の試験で標準条件下ではなく試験場内の常温条件で行っていたり、防水試験で降水量毎時200mm相当以上の散水試験を10分間以上実施すべきところを箱枠の水密検査で実施したり、絶縁抵抗・耐電圧試験で主回路と制御回路間の試験を省略したり、形状・寸法検査を実施せずに検査票を埋めていたりなど、準備に手間がかからないような試験手法の採用や、製品の機能大きな問題が起こらないであろう試験の手順の省略などが目立つ。
実際に、これらの不適切検査を行った製品の安全と性能について確認したところ、リスクがほぼないことを確認したとしている。実際に、鉄道車両用空調装置については、過去58年間にわたって運用中の重大事故は発生しておらず、製品出荷後の不具合は18年間で846件報告されているものの、受渡検査の不適切行為によると思われる不具合は確認されなかったという。
福嶋氏は、今回の不適切検査が法令違反に当たるかという質問に対して、「これらの製品そのものがJIS認定を取得しているわけではないので、法令違反という認識はない。JIS規格にのっとった試験を行うという顧客との契約には違反しているので契約違反には当たることは確かだ」と述べている。
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