深紫外ピコ秒レーザー加工装置、半導体パッケージやガラスの高速微細加工を実現:金属加工技術(2/2 ページ)
三菱電機、大阪大学、スペクトロニクスは、レーザー加工装置として高速に微細加工が行える「高出力深紫外ピコ秒レーザー加工装置」の試作機の開発に成功したと発表した。
熱ひずみにどう対応するか
試作を実現した「高出力深紫外ピコ秒レーザー加工装置」の技術的なポイントは主に深紫外レーザーを発生する「深紫外レーザー光源」部分と、この光源を最適に加工対象物に当てて制御する「加工光学系」部分に分けられる。さらに深紫外レーザー光源は、高出力の近赤外レーザー光源(1064nm)を波長変換ユニットで深紫外レーザー(266nm)に変換する仕組みであり、これを実現する「基本波レーザー光源」と「波長変換ユニット」が技術的なポイントとなっている。
ただ、高出力化するとどうしても各部で熱ひずみが発生し、これらに対応する必要があった。また、従来のピコ秒レーザーでは、パルスの制御性が低く、加工の障害となっていた。今回の協業はこれらの課題を解決したものとなる。
基本波レーザー光源については、スペクトロニクスが開発した半導体レーザーを種光源とする100W級の短パルスレーザーを基にし、レーザー結晶内の熱によるひずみの分布を考慮してレーザー結晶の配置を工夫することでレーザービームのひずみを抑制し、三菱電機が開発した200W以上の増幅器を使って出力を増幅させた。波長変換ユニットについては、高出力の深紫外レーザーを長期間安定に発生できる大型波長変換素子を切り出せるような大型の深紫外レーザー発生用結晶の製造技術を、大阪大学レーザー科学研究所が中心となり開発。内部欠陥の少ない世界最大級(重量1.5kg)の超大型結晶を製造する育成技術により、高出力に対応する深紫外レーザー発生用結晶を実現した。
また、基本波レーザー光源については、電気信号によって直接半導体レーザーからピコ秒レーザーパルスを任意のタイミングで発生させるゲインスイッチパルスを利用する方法を採用。ただ、微弱な半導体レーザーのゲインスイッチパルスには、光増幅する際に発生する光ノイズに埋もれてしまう問題があった。これを解決するため、スペクトロニクスでは、ノイズが少なく増幅率の高いファイバー増幅器とバルク増幅器とを組み合わせたハイブリッドMOPA(Master Oscillator Power Amplifier)方式によるピコ秒パルスの基本波レーザー光源を開発し、課題を解決したという。
加工光学系については、従来のレーザー加工装置で使っていた透過型光学系ではなく、ミラーを使った反射型光学系を開発した。発熱が表面だけに限定されるミラーを用いることで熱によるひずみを低減するとともに、非軸対称な2つのミラーを組み合わせることで、レーザービームのひずみを透過型光学系の15分の1に低減させた。集光性の低下を抑制することで、高出力化してもビームサイズの調整ができるようにした他、加工点でのビーム形状を真円で小さくすることができ、直径が最小4μmの微細穴をガラス基板に形成する精密加工などができるようになったという。
半導体パッケージ用やガラス基板用などで展開
今回開発した試作機は、東京大学を中心に設立した「TACMIコンソーシアム」が千葉県柏市に構築したレーザー加工プラットフォームに、2021年7月に設置する予定。今後は三菱電機内での製品化に向けた検討を進める他、TACMIコンソーシアムなどの環境も生かしながら、レーザー加工装置を使用する電子部品や半導体関連企業と連携し、ガラスなどへの精密で高速な加工技術の開発、新規用途の開拓を進めていく。
三菱電機 先端技術総合研究所 駆動制御システム技術部長 高橋宣行氏は「メインで想定している用途は、半導体パッケージ基板や半透明受信の微細加工だが、それ以外でも医療分野でのガラス系部材などもターゲットとなる」と用途展開について語っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 最新レーザー加工技術が東大柏IIキャンパスに集結、高出力ピコ秒DUVレーザーなど
NEDOは、2016〜2020年度にかけて実施中のプロジェクト「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」で開発された最先端のレーザー光源や加工機を集約してレーザー加工の課題解決に寄与するプラットフォーム「柏IIプラットフォーム」を構築したと発表した。 - 生産性を80%向上、デュアルレーザーシステム搭載のレーザー金属積層造形機
DMG森精機は、デュアルレーザーシステム搭載のレーザー金属積層造形機「LASERTEC 30 DUAL SLM」の販売を開始した。スキャン領域は造形エリア全体をカバーし、高速、高精度の造形で約80%の生産性向上が期待できる。 - DUVレーザー採用の微細レーザー加工機を発売、最小加工径10μmを実現
三菱重工工作機械は、短パルスのDUVレーザーを採用した微細レーザー加工機の新モデル「ABLASER−DUV」を開発した。最小加工径が10μmとより小さくなり、精密加工の微細化に対応する。 - 半導体露光機で日系メーカーはなぜASMLに敗れたのか
法政大学イノベーション・マネジメント研究センターのシンポジウム「海外のジャイアントに学ぶビジネス・エコシステム」では、日本における電子半導体産業の未来を考えるシンポジウム「海外のジャイアントに学ぶビジネス・エコシステム」を開催。半導体露光機業界で日系企業がオランダのASMLに敗れた背景や理由について解説した。 - ナノスケールのちりの影響を抑制、半導体製造装置が目指すIoT活用
「SEMICON Japan 2016」のIoTイノベーションフォーラムで登壇した東京エレクトロン執行役員の西垣寿彦氏は、半導体製造における“ちり”の管理と、IoTを使った生産性向上の取り組みについて紹介した。 - 72台の装置を半日で稼働、日本発「ミニマルファブ」が変える革新型モノづくり
産総研コンソーシアム ファブシステム研究会などは「SEMICON Japan 2016」で、「ミニマルファブの開発成果を発表。同研究会などが推進するミニマル生産方式による製造装置「ミニマルシリーズ」72台を設置し、半導体製造工程のほとんどをカバーできるようになった成果をアピールした。