全ての始まりは「データの標準化」から、IIoT基盤に求められる役割と機能:IIoTの課題解決ワンツースリー(7)(2/2 ページ)
産業用IoT(IIoT)の活用が広がりを見せているが、日本の産業界ではそれほどうまく生かしきれていない企業も多い。IIoT活用を上手に行うためには何が課題となり、どういうことが必要になるのか。本稿ではIIoT活用の課題と成果を出すポイントを紹介している。第7回では、IIoT活用に必須の「データの標準化」と、これに対するIIoTプラットフォーム活用のポイントを解説する。
「データの標準化」はIIoTでどういう意味を持つのか
「データの標準化」とは具体的にはどういうことを示すのだろうか。まずはそこから解説しよう。
ここでいう「データ」とは、ハードウェアレイヤーに属するシステムが持つ情報を源流とするものである。そして「標準化」とは、このデータについて、その単位や指標を含めて受け取る形式(インタフェース)を統一することを指す。例えば、OPC-UAにおける情報モデルや、PackMLにおけるPackTagなどが有名だろう。このデータの標準化は一体なぜ重要となるのか、先述した欧州の自動車メーカーの取り組み事例から重要性について説明していこう。
この自動車メーカーの工場では、同じような役割を果たすもののメーカーや導入時期が異なる装置が混在している。データ活用のために装置からデータを集めてみると、ある装置では提供されているデータが、別の装置では提供されていなかったり、あるいは提供されていても単位が異なっていたり、はたまた同じデータを入手するために複数のデータを掛け合わせる必要があったりする。
これらのデータをそのままデータレイヤーに蓄積し、上位のレイヤーのシステムから活用することを考えてみよう。ソフトウェアレイヤーで装置や工場全体の情報を見える化する場合、それぞれの装置で専用の画面を作成する必要があったり、複数装置の情報を同じグラフ上に並べて比較することが難しくなったりしてしまう。また、ユースケースレイヤーでは、それぞれの装置で個別の予兆保全用のモデル式を準備したり、専用のレポートフォーマットを作成したりする必要が生じてしまう。
そこで重要になるのが、データ標準化という考え方である。すなわち、同じ機能を提供する装置について、必ず同じ情報を同じ単位で提供するようにインタフェースを統一するのである。こうすることで、上位のレイヤーのシステムでは、各装置がどのメーカーから提供されるものでも、それを意識することなく同じものと見なして取り扱うことができるようになり、先述した課題を解消することができる。
例えば、事例の自動車メーカーでは、工場での消費電力量を解析するため、各装置の消費電力をデータとして収集することを考えた。この時、A社製の装置は消費電力を瞬時値で出力し、B社製の装置は積算値で出力することが起こったという。メーカーによってその尺度や単位が異なっていたため、そのまま解析を行えない課題が生じた。そこで、このデータをインタフェースを通じて積算値として出力するよう標準化することで、この課題を解決したのである。この他にも、生産効率の指標とそれを算出するためのデータについて標準化することで、全工場を同じ尺度で比較することを可能とし、工場間で生産性を競争させる取り組みを行っているという。
ここで、具体的にどのようにデータの標準化を進めていけばよいか考えてみよう。データの標準化を進めるには、まずどのようなデータを標準とするかを決める必要がある。これについては、既存の標準データモデルを採用するか、目的に応じて独自に設計を進める必要があるだろう。
次に、ハードウェアレイヤーにおける各装置については、標準データに準拠させていく必要がある。新しく導入する装置については、そのメーカーに対して標準データに準拠するように仕様を提示すればよいだろう。しかし、既存の装置ではどうだろうか。これまで導入した全ての拠点における膨大な数の装置について、そのプログラムを変更する必要が生じる。これがいかに困難であるかは想像に難くない。
そこで、この自動車メーカーでは、データレイヤーを含むIIoTプラットフォームでデータを集め、このプラットフォーム内部で装置ごとのデータの差異を吸収する機能を実現することで、データの標準化に対応したのである。彼らは、このデータ標準化を進めるために、これを専門に行うチーム(約5人)を各拠点に設立しているという。
この「プラットフォーム内部で装置ごとのデータの差異を吸収する機能」とは、具体的にはどのように実現されているのだろうか。彼らは、IIoTソフトウェアプラットフォームとしてzenon(第3回参照)を採用しており、このzenonに搭載されているzenon Logicという機能によってこれを実現している。
zenon Logicは、IEC61131-3(PLC言語の標準化規格)に準拠したソフトウェアPLC機能であり、zenonのドライバ機能で収集した装置のPLCの値を、zenon Logicで実行されるプログラム内で簡単に使用することができる。彼らは、この機能を活用して、標準化されていない装置のPLCのタグを、上述のデータ標準化専門チームによってデザインされた標準データモデル(インタフェース)のタグへ変換およびマッピングする処理を実現しているのである。
IIoT基盤導入が進む今こそ重要な「データ標準化」
本稿では、IIoTプラットフォームに望まれる機能について、欧州自動車メーカーの取り組みをもとに「データの標準化」という観点から解説した。生産設備のデータを活用することを考えた時、データの標準化は非常に重要なポイントとなってくる。そして、データの標準化を無理なく進めるには、IIoTプラットフォームの活用が必要となる。IIoTプラットフォームの導入が進む今こそ、データの標準化に真剣に取り組むタイミングなのである。次回はもう1つの観点である「メタデータの活用」という観点について解説する。
著者紹介:
リンクス 代表取締役 村上 慶(むらかみ けい)
1996年4月、筑波大学入学後、在学中の1999年4月、オーストラリアのウロンゴン(Wollongong)大学に国費留学、工学部にてコンピュータサイエンスを学ぶ。2001年3月、筑波大学第三学群工学システム学類を卒業後、同年4月、リンクスに入社。主に自動車、航空宇宙の分野における高速フィードバック制御の開発支援ツールであるdSPACE社製品の国内普及に従事し、国内におけるトップシェア製品となる。2003年、同社取締役、2005年7月、同社代表取締役に就任。
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