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感性設計を基本とした常套的デライトデザインの方法デライトデザイン入門(3)(3/3 ページ)

「デライトデザイン」について解説する連載。今回からデライトデザインの具体的な事例も交えながら理解を深めることとする。連載第3回では、デライトデザインの1つのアプローチとして、「感性設計」を基本とした常套的デライトデザインの方法について、ドライヤーを例に説明する。

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ものの特性 〜ワクワク製品情報〜

 ドライヤーに関する人の感じ方の分析から、持ちやすさ、スタイル、心地よい音が目標として設定できた。次に、持ちやすさ、スタイル、心地よい音に関する情報を抽出する。

 まず、カタログなどから流量、温度、重量、形式(折り畳みの有無)、消費電力を抽出し、持ちやすさに関する情報として詳細な重量(本体、コード、ノズル)、回転慣性、重心位置を計測した。また、スタイルに関して、各部の形状を計測した。音に関しては次回詳しく紹介するが、音質指標なるものが定義されているので、それにのっとって計測、分析して4つの音質指標を求めた。このようにして求めた23機種のドライヤーの製品情報(ものの特性)を図7に示す。

製品に関する情報
図7 製品に関する情報 [クリックで拡大]

“人”と“もの”の関係 〜ワクワクと製品の関係〜

 人の感じ方を製品に反映するには、人の感じ方(持ちやすさ、スタイル、心地よい音)を、ものの特性(製品情報)に対応付ける必要がある。ここでは、“持ちやすい”ドライヤーを目的として設定する。持ちやすさと関係の深い製品情報として“重量”が挙げられる。そこで、持ちやすさを縦軸に、重量を横軸に23機種のドライヤーをプロットしたのが図8である。

人の感じ方(持ちやすさ)と製品情報(重量)の関係
図8 人の感じ方(持ちやすさ)と製品情報(重量)の関係 [クリックで拡大]

 全体として見ると、持ちやすさと重量の間には相関はないが、よく観察すると2つのパターンに区分できることが分かる。パターン1(23機種中16機種)は軽いほど持ちやすいという傾向にある。一方、パターン2(23機種中7機種)はパターン1と同様に軽いほど持ちやすいという傾向があるものの、その傾向は小さい。

 また、同じ重量で比較するとパターン2の方が持ちやすいという結果になっている。そこで、実際にドライヤーを使っている際の手首およびドライヤー本体の動きをモーションキャプチャーで計測評価したところ、パターン1のドライヤーでは被験者はドライヤーを大きく動かしていることが、パターン2ではあまり動かしていないことが分かった。これは重量だけでなく、形状、体積、重量バランスも影響していると考えられる。

 そこで、パターン1のドライヤー16機種に関して、製品情報として重量(M)、回転慣性(MOI)、体積(V)、長さ(L)を選択。これら4つの要因を「主成分分析」(注3)により2つの主成分に集約して、この2つの主成分と持ちやすさとの関係を「重回帰分析」(注4)により求め、グラフ化したものが図9だ。このグラフはデライト(ここでは「持ちやすさ」)の方向性を示すもので「デライトマップ」と呼ぶ。

※注3:主成分分析とは、統計学上のデータ解析手法の1つで、複数の説明変数を少ない指標で要約する。
※注4:重回帰分析とは、統計学上のデータ解析手法の1つで、複数の説明変数を用いて目的変数を回帰式で表現する。

持ちやすさに関するデライトマップ
図9 持ちやすさに関するデライトマップ [クリックで拡大]

 ここでの持ちやすさは、重量、回転慣性、体積、長さで決まるものであり、

持ちやすさ(H)=f(P1,P2)
  P1=g(M,MOI,L,V)
  P2=h(M,MOI,L,V)

と表現できる。デライトマップの導出方法の詳細については、次回および次々回に説明する。今回紹介した統計的手法に関しては参考文献[5]が参考になる。

参考文献:

[5]井上勝雄、エクセルによる調査解析入門、海文堂出版、2010


常套的方法の問題点

 今回は、感性設計を基本としたデライトデザインの方法について、ドライヤーを例に紹介した。手法としてはある程度確立しているといえるが、統計的手法に基づいているため、どうしても平均的(平凡)な解になる傾向にある。また、図8から持ちやすさと重量が関係していることは分かるが、これだと重量ゼロが一番持ちやすいということになってしまう。感覚的には適正な重量、重量バランス、形状があるはずであり、設計者のものづくりに対するノウハウや本質の理解を組み合わせることでデライトデザインが実現できる。図9のデライトマップを使用することにより、対象によっては評価式が複雑で理解が難しくなる可能性があるが、適正解が求まり、デライトデザインへ向けた設計のヒントを得られる。

 次回はデライトデザインの1つである「音のデザイン」に関して、クリーナーへの適用例を通して紹介する。 (次回へ続く

謝辞:

本成果の一部は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務の結果得られたものである。


⇒ 連載バックナンバーはこちら

筆者プロフィール:

大富浩一/山崎美稀/福江高志/井上全人(https://1dcae.jp/profile/

日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。デライトデザインもその一つである。


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