“空飛ぶじゅうたん”を次の常識に、FAにオープン化をもたらすベッコフの10年:FAインタビュー(2/2 ページ)
Beckhoff Automation(ベッコフオートメーション)は日本に進出してから10年を迎える。2011年の日本法人設立から10年間を率いてきたベッコフオートメーション(日本法人)代表取締役社長の川野俊充氏に、これまでの10年間と今後について話を聞いた。
予想できない事態が頻発する時代
MONOist 10年前はちょうど東日本大震災の発生した年でした。
川野氏 日本法人の設立は震災から3日後の2011年3月14日で、震災時はその準備を行っていたところでした。いきなり自宅待機からスタートし、日本法人としての最初の仕事が「震災で止まった機械を開けたらベッコフオートメーションの機器が搭載されているが、スペアパーツが欲しい」という震災対応のものでした。ただ、こうしたある意味で逆境からスタートした経験から、どんな状況でも顧客に価値提供を継続できる精神力は組織として身に付いたかもしれません。
今直面しているコロナ禍も誰もが全く予想できないものでした。その中でもリモートワーク化やロケーションフリー化を進め、社員も誰も辞めずに、顧客への製品提供やサポートなどを問題なく進めることができています。今回の動きで業界全体の「常識」も変化してきました。従来は「現地現物」が当たり前の世界で、まずは現場に足を運ぶことが求められましたが、今はオンラインも組み合わせる形で進めるようになってきています。もちろんリアルですり合わせる場も必要ですが「会う時間と場所を用意する」という投資の大きさに見合う部分に効果的に使っていくという発想に変わってきました。
こうしたさまざまな変化に柔軟に対応していくことが必要です。ベッコフオートメーションのオフィスも固定席をなくし、共同作業などを中心に行えるような形にリノベーションします。動画配信用の収録スペースなども用意し、新たなコミュニケーションなども行えるようにしていきます。
よく、外資系であることから「何かあれば撤退するのでは」という心配をされることもありますが、この2つの大きな危機を乗り越えてきたことを考えると、もう撤退するような事象はあまりないのではないかと考えています。ベッコフオートメーションそのものは未公開企業であるため、長期の目標に向けてじっくりと取り組むことが求められます。日本法人に与えられた役割は、日本での実績を作るということです。日本法人としてのミッションステートメントとしては「日本の製造業の生産性向上に貢献する」を掲げており、この目的に邁進(まいしん)していきます。幸いにも日本法人では2020年も売上高で成長を維持できました。また、2021年はコロナ禍で止まっていたプロジェクトの再起動などもあり、前年比2倍弱の受注状況と、好調を持続できています。
“空飛ぶじゅうたん”を次の「常識」に
MONOist これまで「非常識を常識に」に取り組んできたという話ですが、次の10年で「常識」にしたいことというのはありますか。
川野氏 ワーク搬送を磁気浮遊で行うという新しい「常識」を定着させたいと強く考えています。これは、リニア搬送システム「XPlanar(Xプラナー)」という製品で実現したものです。電磁力により浮遊させた可動部を、平面タイルの上に浮かべて自由に動かすことが搬送システムなのですが、非接触で搬送が実現できる点、高速・高精度制御による搬送による新たな価値を発揮できると考えています。従来にない動きができるので、アートやアトラクション分野からも注目されています。
これが一般的に使えるような世界を広げていきたいと考えています。従来は人でしか行えなかった搬送やワークの設置などを自動化するには、自由で自律的な搬送は欠かせません。まさにインダストリー4.0の世界を実現する1つの重要な要素になると見ています。これを浸透させることが今後の大きな目標です。
MONOist 体制面での強化についてはどう考えますか。
川野氏 組織の拡充という意味では、機械学習やシミュレーション、画像処理など先進技術の専門家の採用を進める他、先述したような「未開の地」への挑戦を進める中で、業界ごとのアドバイザー制度を設置します。「工作機械の未来」や「射出成形機の未来」などを一緒に考える業界の第1人者を「アドバイザー」として設置し、共にあるべき姿を描き、そこで求められる技術を顧客に提案するというような取り組みを進めていきます。
また、将来の人材育成の面では、大学や社会人教育などの場へのスポンサーシップなども進めていきます。東京大学のロボコンサークル「東京大学 RoboTech」や、次世代ロボットエンジニア支援機構「Scramble」、ファクトリーサイエンティスト協会などへの協賛を進め、次世代のエンジニアの育成を強化していきます。
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