絶対に押さえておきたい製品化におけるコスト見積もりの基礎知識:アイデアを「製品化」する方法、ズバリ教えます!(7)(3/3 ページ)
自分のアイデアを具現化し、それを製品として世に送り出すために必要なことは何か。素晴らしいアイデアや技術力だけではなし得ない、「製品化」を実現するための知識やスキル、視点について詳しく解説する連載。第7回は、部品コストがどのような要素で成り立っているのか、適切な見積もり依頼の方法と見積コストの確認の仕方を取り上げる。
見積コストの提示条件
部品メーカーに見積もり依頼をするときには、単品の部品コスト、もしくは複数の部品を組み立てた組み立て部品のコスト(組み立て費が含まれる)がほしいのか、また金型費の見積コストもほしいのかを明確に指示する必要がある。単に3D/2Dデータを数点送り「見積もりをお願いします」とだけ依頼する企業もあるが、それでは何の見積コストを提示すればよいのか分からない。また、税込みにするかしないかも明確に指示する必要がある。基本的には、部品コストは税別、金型費は税込みで見積コストが提示されると後々の計算に便利である。
海外で見積もり依頼するときには、通貨単位を指示する必要がある。日本円かドル、RMB(中国)など、どの通貨単位で部品コストを提示するかということだ。中国で部品を生産する場合はRMBで部品コストを提示してほしいのに、ドルで提示されていた場合は後から使用した為替レートを確認し、計算し直す必要がある。また、再度同じ部品メーカーに見積もり依頼をしたときに為替レートが変更されていたら、部品コストの比較ができなくなってしまう。複数の部品メーカーで通貨単位がバラバラであったら相見積もりもできない。よって、希望する通貨単位をあらかじめ指示する必要がある。基本的には、部品の製造国の通貨単位で見積コストを提示してもらうことが望ましい。日本に輸入する場合には、そのコストに貿易条件と為替などを加味して部品コストを算出することになる。
見積明細書の確認
部品メーカーとの信頼関係を維持するためにも、見積明細書を提出してもらいたい。部品コストは提示してもらえても、見積明細書の提出までは要求できない、と控えめな人もいるが、筆者の知る限り「要求があれば出す、要求がなければ出さない」という部品メーカーがほとんどである。中国でも同じだ。必要ならば要求すべきである。
見積明細書には、次の項目が記載されている。
- 材料費
- 加工費
- 不良費
- 管理費
- 梱包費
- 輸送費
- 利益率
見積明細書を入手したら、上記の値が適切であるかどうかを確認する。加工費は、マシンチャージと装置の使用時間から算出し、手作業工程があればその時間に賃率を掛けて算出する。加工時間は分からなくても、加工工程が合っているかどうかくらいは確認しておきたい。不良費は不良率から算出する。不良率は過去の類似部品や、相見積もりをしていれば他社の不良率と比較して適切であるか判断できる。不良率はその部品メーカーの製造スキルの差でもあるので、同じ部品であっても部品メーカーによって異なる。梱包(こんぽう)費と輸送費は前述したMOQに大きく影響してくるので、異常に高ければ交渉したい。利益率は適切であるか購買部の人にも相談して確認したい。他にも、部品メーカーが2次加工メーカーに一部の加工を外注していれば外注加工費があり、部品の組み立て工程があれば組み立て費もある。また、特別費としてよく分からない費用が上乗せされていたら、必ず部品メーカーに確認すべきだ。
このように、部品コストはとても多くの要素を持っている。材料コストが高ければ過剰スペックではないか、加工費が高ければ他の加工方法や加工順にはできないか、不良率が高ければ何が原因なのか、梱包費や輸送費が高ければスタッキングしやすくするなど部品形状に工夫ができないかなど、設計的にコストダウンできる内容が多くあることを理解できる。設計者は、自分の設計した部品コストの内訳を知ることが大切であると同時に、各項目の内容をよく理解すれば、部品の材料選定や設計方法、加工方法に工夫を加えることができ、設計者としてのスキルのアップにもつながる。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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