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今や“凡庸な先進国”へ、一人当たりGDPに見る日本の立ち位置の変化「ファクト」から考える中小製造業の生きる道(3)(3/3 ページ)

苦境が目立つ日本経済の中で、中小製造業はどのような役割を果たすのか――。「ファクト」を基に、中小製造業の生きる道を探す本連載。第3回では、国民1人当たりの豊かさを示す指標「1人当たりGDP」に焦点を当て、日本の現在地を見てきます。

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日本だけでなく米国以外のG7各国も“凡庸化”

 ちなみに、第1回でも紹介しましたが、平均所得も2019年にはOECD中20位となっています。ご存じの方も多いと思いますが、実は平均所得と1人当たりGDPは極めて強い相関があるといわれています。

 図5は、横軸に1人当たりGDP、縦軸に平均給与をとった相関図です。それぞれの国を、人口に応じた大きさのバブルで示してあり、バブルチャートとも呼ばれます。1997年のデータを基にしています。

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図5 1997年の平均給与と1人当たりGDPのバブルチャート(クリックで拡大)OECD統計データを基に筆者が作成

 ご覧の通り、全ての国がほぼ一直線上に並びます。このような状態を「正の相関」があると表現します。正の相関はどちらか一方が増えると、もう片方も増える関係にあるということです。

 この場合は、1人当たりGDPと平均給与は強い正の相関があるということになります。経済統計を見る際には、このような関係を「因果関係」ではなく「相関関係」として見る姿勢が大切なようです。

 因果関係は「どちらか一方が増えた“から”もう一方も増えている」というように、原因と結果をひも付けようとする見方です。一方、相関関係はあくまでも「こちらも増えているし、あちらも増えている」という事実を述べるだけの見方です。まずは、統計データを見るときはフラットな姿勢で「相関関係があるかどうか」という見方をしておくと良いと考えます。

 さて、脱線いたしましたが、話を戻します。1997年の時点では日本は、スイス、ルクセンブルクに次いで「右上」に位置し「最先進国」の1つとして全体をけん引する存在であることが、視覚的にも明らかに分かります。米国以外にもドイツや英国、フランスなどの国々よりも右上に位置しています。G7各国も全て平均より右上の領域に属していて、先進国の中でも存在感を発揮していることが見て取れますね。

 しかし、2019年の様子を見ると、この状況は大きく変わっています。図6が2019年のバブルチャートとなります。

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図6 2019年の平均給与と1人当たりGDPのバブルチャート(クリックで拡大)OECD統計データを基に筆者が作成

 全体として正の相関が強いことは変わりませんが、最も大きく変化しているのが、わが国日本の立ち位置です。1997年には最も右上に位置する国の一つつだったのが、2019年には平均値のど真ん中(厳密にはやや左下)に位置しています。米国はおろか、カナダ、ドイツ、英国、フランスよりも左下に来ています。

 さらに付け加えると、これらの米国以外のG7各国についても「真ん中」周辺に集中していることが分かります。日本以外のこれらの国も、日本ほどではないにしても相対的にその存在感が薄れてきているということがいえそうです。

経済的には“凡庸な先進国”となった日本

 今回は、1人当たりGDPという重要な経済指標について、統計データに基づくファクトを共有させていただきました。バブルチャートで日本の位置を可視化することで、平均給与と1人当たりGDPは強い相関がある事もご紹介しました。

 そして、日本はかつて先進国をけん引する“最先進国”の1つでしたが、現在はどちらもほぼ平均値の“凡庸な先進国”となっています。

 1人当たりGDPは、国民全体の1年間の付加価値を、総人口で割った数値です。大人も子供も高齢者も頭数としてカウントしています。言い方を変えれば「国民1人が1年間に稼ぐ付加価値の平均値」という意味になりますね。ある期間に稼いだ付加価値は「生産性」とも表現できますので「国民1人当たりの平均的な生産性」と言い換えることもできます。

 こういう話をすると「日本は少子高齢化が最も進んでいて、高齢者が多いのだから、1人当たりGDPにしたら数値が低くなるのは当然ではないか」といったご指摘をいただくかもしれません。実際に、少子高齢化や人口減少は日本だけの問題ではありませんので、こうした指摘は必ずしも当たらないとは思いますが、この点についてはまた別の機会で触れようと思います。

 ただ、このようなご指摘で言いたいことは「労働者1人当たりの生産性」では「わが国はまだまだ高い水準であるはずだ」ということなのだと思います。「労働生産性」は「労働者1人が一定期間に稼ぐ付加価値」ですね。今回の1人当たりGDPと近い意味を持ちますが、さらにわれわれ企業の活動とより密接に関係する指標といえます。

 次回はこの労働生産性についてのファクトを共有していきたいと思います。

⇒前回(第2回)はこちら
⇒次回(第4回)はこちら
⇒本連載の目次はこちら
⇒製造マネジメントフォーラム過去連載一覧

筆者紹介

小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役

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 慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。

 医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。


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