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デライトデザインとは? 3つのデザイン、類似の考え方を通して読み解くデライトデザイン入門(2)(2/2 ページ)

「デライトデザイン」について解説する連載。第2回では、デライトデザインとは? について考える。まず、設計とデザインの違いについて触れ、ユーザーが製品に期待する3つの品質に基づくデザインの関係性にも言及する。さらにデライトデザインを実行する際に参考となる考え方や手法を紹介するとともに、DfXについて説明し、デライトデザインの実践に欠かせない要件を明確にする。

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Ashby先生が提唱するデザイン

 デライトデザインに共通する考え方として、Ashby先生の著書(参考文献[3])の第15章(Materials and Industrial Design)の内容を紹介する。ここで、Ashby先生は製品に求められる要件として図4を提示している。すなわち、製品は「Functionality機能:ちゃんと機能し、安全で経済的)」が基本要件としてあり、その上に「Usability使い勝手:理解しやすく使いやすい)」、さらにその上に「Satisfaction満足:生活を向上)」が要件として求められる。

製品に求められる要件
図4 製品に求められる要件 [クリックで拡大]

 また、Ashby先生は、

  • Industrial design = Satisfaction × Usability
  • Technical design = Usability × Functionality
  • Product design = Technical design × Industrial design

と定義している。これを先ほどの図1に当てはめてみると、Industrial designはデザインに、Technical designは設計に相当するといえるため、

  • Technical design(設計) ⇒ 製品としてのデザイン
  • Industrial design(デザイン) ⇒ 商品としてのデザイン

と考えると、その目指すところが見えてくる。

 Ashby先生は考え方の提唱だけでなく、その具体的方法にも言及している。Satisfactionには美的因子(感性)が大きく影響する。例えば、製品の触感として「温かい⇔冷たい」「柔らかい⇔硬い」があるが、これらは下記で表現できるという。

  • 「温かい⇔冷たい」を表す指標 = (ρλCp1/2
     ※ρ(密度)、λ(熱伝導率)、Cp(比熱)
  • 「柔らかい⇔硬い」を表す指標 = (EH)1/2
     ※E(縦弾性係数)、H(ビッカース硬さ)

 上記指標の厳密性はともかく、材料の物性値から人の感じ方(感性)を指標化する方法はデライトデザインにも応用できる。

参考文献:

[3]Michael F. Ashby, Materials Selection in Mechanical Design, Fifth Edition, 2017


デザイン・フォー・エックス(DfX)

 1990年代に米国で提唱、実践されたDfX(参考文献[4])では、図5に示すように、製品開発に当たって、企画からデザイン(設計)に移行する際に、製品のライフサイクル全体を通して全体適正設計を行うことを目指す。製品はデザイン、設計の後、試作調達、製造組み立て、出荷・据え付け調整、サービス・保守、回収・再生を経て、再度、企画に戻る。すなわち、この構想設計(デザイン)、詳細設計(設計)の際に、試作調達、製造組み立て、出荷・据え付け調整、サービス・保守、回収・再生も考慮するということを意味する。

デザイン・フォー・エックス(DfX)
図5 デザイン・フォー・エックス(DfX) [クリックで拡大]

 例えば、ノートPCを作る際、故障率を極限まで小さくする設計(マストの向上)も可能であるが、これではコストの大幅な増大(ベターの低下)につながる。一定の故障率を容認した上で、サービス・保守として、不具合時の早急な対応の仕組みを強化することにより、若干のマストの低下、ベターの向上、デライトの向上を図ることは可能である。DfXでは製品のライフサイクルを考える上で、顧客(使用者)視点のデザインも重要となってくる。もともとのDfXにはこの考え方は存在しないので、図5ではサービス・保守の位置に“使用”という顧客視点のDfXを追加した。

 また、DfX推進者の一人であるスタンフォード大学のKosuke Ishii先生(参考文献[5])は、DfXを

製品開発において企画から設計に移行する際、(1)論理的にプロジェクトの性質を解析し、(2)これを踏まえて有効な個々の設計手法(DfXの“X”)を選択し、(3)以降の開発活動への投入計画を立てる活動である

と定義し、さらに下記の4つをその際に明確にすべきだと提言している。

  1. 開発の戦略的目的
     なぜ、今、このプロジェクト(製品開発)に着手するのか?
  2. 顧客構造と要求項目
     顧客は誰? 顧客の声(VoC:Voice of Customer)は何か?
  3. 製品差別化の焦点
     多様なVoCのうち、何に焦点を当てるのか?
  4. 開発優先項目
     機能/コスト/開発速度の何を優先項目とするのか?

 特に、最後の「4.開発優先項目」に関しては、3項目(機能、コスト、開発速度)全てを目指すのではなく、どれを最優先するのかを決めることが重要であると強調している。これは3つのデザインにも相通ずるところである。

参考文献:

[4]David A Gatenby and George Foo, Design for X(DfX):Key to Competitive Profitable Markets, AT&T Technical Journal, Vol.69, No.3, May/June, 1990
[5]https://news.stanford.edu/news/2009/june17/memres_ishii-061709.html


デライトデザインとは?

 以上をまとめると、デライトデザインとは“製品のライフサイクルを通して、ユーザー視点も考慮しながら製品の価値を最大化するプロセス”と考えることができる。そして、これを実現するためには、

  • どのようなデライトを目指すのか
  • デライト(ワクワク)をどう定義、指標化するのか
  • デライト(価値)を機能、構造にどう結び付けるのか(デザインから設計へ)

を明らかにする必要がある。



 次回は、デライトデザインとは? を受けて、デライトデザインの一つの(常套的な)方法として、感性の指標化と統計的手法を基本としたデライトデザイン手法を紹介する。 (次回へ続く

⇒ 連載バックナンバーはこちら

筆者プロフィール:

大富浩一/山崎美稀/福江高志/井上全人(https://1dcae.jp/profile/

日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。デライトデザインもその一つである。


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