感性設計を基本とした常套的デライトデザインの方法:デライトデザイン入門(3)(1/3 ページ)
「デライトデザイン」について解説する連載。今回からデライトデザインの具体的な事例も交えながら理解を深めることとする。連載第3回では、デライトデザインの1つのアプローチとして、「感性設計」を基本とした常套的デライトデザインの方法について、ドライヤーを例に説明する。
今回から「デライトデザイン」の具体的な事例も交えながら理解を深めることとする。連載第3回では、デライトデザインの1つのアプローチとして、「感性設計」(参考文献[1])を基本とした方法(ここでは「常套(とう)的方法」と呼ぶ)について、ドライヤーを例に説明する。
最初に、デライトデザインの手順として、“人の感じ方(感性)”と“ものの特性(製品情報)”を結び付ける考え方を説明する。次に、人の感じ方を言葉で表現するための手法である「評価グリッド法」を紹介し、この方法でドライヤーに関して人が感じる言葉を抽出する手順を説明する。この言葉を基に、印象評価法の一種である「SD(Semantic Differential)法」を用いてキーワードを絞り込む。このキーワードを念頭に置き、カタログや計測などにより製品情報を収集、整理する。以上の、人の感じ方に関するキーワードと製品情報を基に、人の感じ方(持ちやすさ)と製品情報(重量)の関係を導出する。最後に、この常套的方法の問題について考える。
参考文献:
[1]Mitsuo Nagamachi, Innovation of Kansei Engineering, Routledge, 2010
※)「ものづくり」の表記について:MONOistでは「モノづくり」で表記を統一していますが、本連載では「もの」と「モノ」の違いを重視していることから「ものづくり」としています(参考:連載第1回)。
デライトデザインの手順
通常のデザインとデライトデザインの違いは、目標設定の方法にある。例えば、ドライヤーで“高性能”を目指す場合、1つのアプローチとして高流量の実現が考えられる。このとき「毎分2m3」といったように、数値で目標の流量を設定することになる。後は、この目標流量を実現するために、ファンの形状、大きさ、モータ仕様、全体形状などを決めていく。
一方、デライトデザインの目標は“人がワクワクするドライヤーをデザインすること”にある。従って、人がドライヤーに関してどのように感じているかを見いだすことが目標設定の起点となる。
一般的にいうと、前回Michael F. Ashby先生に関して紹介したように、「温かい⇔冷たい」「柔らかい⇔硬い」が人の感じ方に相当する。これを、ものの特性(この場合は材料特性)で表現すると、それぞれ(ρλCp)1/2、(EH)1/2となり、この関係に基づき材料を選定すればよい。
デライトデザインも同様であり、図1に示すように“人の感じ方(H)”と“ものの特性(P)”の関係「H=f(P)」を見いだすことになる。人の感じ方については、生体情報を用いて計測する方法も試みられているが、現時点では研究段階で実用化までにはまだ時間を要する。そのため、感性設計の考え方に基づいて、言葉(人に聞く)で表現することが一般的である。
目標とする“人の感じ方(H)”が決まると、次にこれに相当する“ものの特性(P)”を収集する。このとき、カタロク情報が参考になるが、現物がある場合には計測を行うことになる。なお、“人の感じ方(H)”を「官能指標」や「主観指標」、“ものの特性(P)”を「物理指標」や「客観指標」と呼ぶ(参考文献[2])。“人の感じ方(H)”と“ものの特性(P)”の関係式H=f(P)は、種々の仮定に基づいて試行錯誤で考えることが多いが、統計的手法に基づいて導出する場合もある。
参考文献:
[2]大富浩一、よく分かるデライト設計入門、日刊工業新聞社、2017
人の感じ方 〜ワクワクの表現〜
ドライヤーについての人の感じ方は、いわゆるアンケート、インタビューで知ることもできるが、人の表層的な感じ方は分かっても、深層的な感じ方(人が直接意識していない潜在的な感じ方)を抽出することは難しい。これを可能とする方法として評価グリッド法(参考文献[3])がある。
図2に評価グリッド法の手順を示す。被験者に幾つかのドライヤーから3種類のドライヤーを選んでもらい、これに(好きな)順番を付けてもらう。図2の例では、“A>B>C”の順番になっている。次に、BとCを対象に「なぜ、BがCよりもいいのか?」と質問し、回答を得る。なお、この最初の回答を起点に「なぜ、そうなのか(Why?)」と聞いていくことを“ラダーアップ”、「どうしたらいいですか(How?)」と聞いていくことを“ラダーダウン”と呼ぶ。この手順により、被験者(人)の潜在的なドライヤーへの感じ方を抽出することが可能となる。AとBに対しても同様のことを行う。評価グリッド法はインタビュアーの資質が結果に大きく依存するため経験が必要である。
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