ワークマンが扱う10万品目の発注業務を自動化、「Lumada」が衣料品販売にも対応:物流のスマート化
ワークマンと日立製作所は、両社の協創を通じてワークマンの店舗における約10万品目の発注業務を自動化する新システムを開発したと発表。これまで各店舗で1日当たり30分かかっていた発注業務を2分に短縮するとともに、新業態の「WORKMAN Plus」などで発生していた欠品による販売機会ロスを抑制する効果などを見込む。
作業服やアウトドアウェアの販売を手掛けるワークマンと日立製作所(以下、日立)は2021年4月19日、オンラインで会見を開き、両社の協創を通じてワークマンの店舗における約10万品目の発注業務を自動化する新システムを開発したと発表した。これまで各店舗で1日当たり30分かかっていた発注業務を2分に短縮するとともに、新業態の「WORKMAN Plus」などで発生していた欠品による販売機会ロスを抑制する効果などを見込む。ワークマンでは、2021年3月から2店舗で先行導入しており、同年11月までに全国約900店舗のうち約450店舗、2022年中に約700店舗に導入し、その後も順次展開を広げる方針である。
今回、ワークマンと日立で開発した自動発注システムは、日立のデジタルソリューション群「Lumada」のうち流通分野向けに展開する「Hitachi Digital Solution for Retail(HDSFR)」の「AI需要予測型自動発注サービス」をベースに開発した。同サービスは全国展開するスーパーマーケットなどへの導入実績があるが、衣料品を扱う企業向けでは初採用となる。
今回開発したシステムのおける同サービスのアルゴリズムは、在庫回転率が低い品目に対応する「自動補充型」と、在庫回転率が高い品目に対応する「AI需要予測型」を併せ持ち、商品の売れ行きに応じて最適なものを自動で選択し、切り替える内容となっている。これに、アルゴリズムの切り替えや、自動補充型アルゴリズムに関する制御パラメータを分析し一括でメンテナンスする運用サポートに、日立ソリューションズ東日本の需要予測・発注計画ソリューション「SynCAS」を組み合わせている。
アルゴリズムのうち自動補充型については、商品の販売累計が一定数を超えた時や最低在庫量を下回った時に、自動的に発注を行う「セルワンバイワン方式」による計算方法を採用。例えば、1店舗当たりの販売数が1週間に数点以下のような在庫回転率が低い品目などは、この自動補充型アルゴリズムが適用される。ワークマンがこれまで運用してきた、従来の自動発注システムと同様に売れたら補充するという動作になる。
一方、AI需要予測型アルゴリズムでは、商品ごとの過去の在庫、発注、販売、売れ残り量や、天候、イベント情報などの複雑な条件を考慮して需要量を算出する方法を用いている。これによって小まめな発注を行うことにより、従来の自動発注システムでは数日レベルにわたって発生していた欠品期間を短縮できるようになる。
これらの他、販売期間が限られる季節商品などの終売をマスタ設定することによる自動発注量の制御や、商品の供給元であるメーカーの休日のような供給制約を加味した発注計画の制御、シミュレーションや在庫可視化を商品一覧からたどっての一括メンテナンスへの操作連動、パラメータとコーザル(変動要因)を俯瞰した推移に基づく在庫変動のシミュレーションなどの機能を備えている。
小まめな補充で欠品を従来比で15%抑制
実際に、ワークマンの3店舗、31品目を対象に開発システムのシミュレーションを行ったところ、現状の店舗棚割に即した平均在庫量を維持しながら、小まめな補充によって欠品を従来比で15%抑制できることが確認できた。また、先述した発注業務にかかる時間の30分から2分への短縮もこのシミュレーションで確認している。
ワークマンは、さまざまな現場で用いられる作業服の専門店として事業を展開してきた。同社事業の特徴の一つが、直営店ではない、フランチャイズ契約による店舗展開が中心であることだが、多数の商品を扱うワークマン各店舗のオーナーが担当する発注業務や在庫管理は最適化が難しく、大きな負荷にもなっていた。また、ワークマンは品ぞろえが重要視される業態であるが故に、在庫回転率が低い商品で店舗があふれて倉庫化することも課題になっていた。さらに、各店舗の運営を支援するワークマンのスーパーバイザーにとっても適正な販売計画を立案するための需要要因や品ぞろえの把握が難しいという状況があった。
加えて、ワークマンでは既存業態の店舗で重視される在庫回転率が低い商品に対応する自動発注システムにより店舗の発注業務を支援していたが、より幅広い顧客層への訴求を目指す「WORKMAN Plus」や「ワークマン女子」といった新業態店舗で、既存店とは異なる売れ行きを示す商品に対して同システムでは適正な対応ができず長期の欠品による販売機会ロスが課題となっていた。これらの課題に対応するため、日立のHDSFR/AI需要予測型自動発注サービスをベースに、ワークマンがこれまでに蓄積してきた衣料品向けの自動発注の知見やノウハウを組み入れたのが今回開発したシステムとなる。
日立は、これまでスーパーマーケットなど食料品を扱う販売店向けを中心に展開していたHDSFR/AI需要予測型自動発注サービスについて、ワークマンとの協創の成果を反映することで展開する業種を拡大させていく方針である。
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