日立が1兆円規模で米デジタルエンジニアリング企業買収、Lumadaの強化を目指す:製造マネジメントニュース
日立製作所は2021年3月31日、DX支援を行う米国のデジタルエンジニアリング企業GlobalLogicを約96億ドルで買収する契約を締結したと発表した。買収を通じて日立製作所は、GlobalLogicが持つ、エッジデバイスで収集したデータをクラウドに送る「Chip-to-Cloud」を実現するソフトウェア開発力を獲得し、IoTプラットフォーム「Lumada」の事業展開を強化する。
日立製作所は2021年3月31日、DX(デジタルトランスフォーメーション)支援を行う米国のデジタルエンジニアリング企業GlobalLogicを約96億ドル(同年4月1日時点で約1兆629億円)で買収する契約を締結したと発表した。買収を通じて、エッジデバイスで収集したデータをクラウドに送る「Chip-to-Cloud」を実現するソフトウェアエンジニアリング力を獲得し、IoT(モノのインターネット)プラットフォーム「Lumada」の事業展開を強化する。
「Chip-to-Cloud」の実現力に強み
GlobalLogicは2000年に米国カルフォルニア州に設立された、デジタルエンジニアリング事業を展開する企業である。エッジデバイス上で吸い上げたデータをクラウドへと送る「Chip-to-Cloud(チップからクラウドまで)」をアジャイル方式で実現する高度なソフトウェアエンジニアリング技術と、それに基づくDX支援力を強みとする。
オフショア開発の人員を含めて世界中で2万人以上の従業員と、営業拠点となる9箇所のリージョナルオフィスを擁する。この他に、デリバリー拠点となるエンジニアリングセンターを世界中で30箇所、顧客との協創を行うデザインスタジオを8箇所持つ。既存顧客数は400社以上で、通信、金融サービス、自動車、ヘルスケア、メディア、産業分野と幅広い領域に及ぶ。
2020年度売上見通しは9億2100万ドル(約1018億8884万円)で前年比19.3%、調整後EBITDA(償却前営業利益)率は23.7%。日立製作所は株式価値を約85億ドル(約9403億円)、企業価値を約95億ドル(約1兆509億円)と見積もり、買収総額は有利子負債返済分の金額を含めて約96億ドル(約1兆629億円)を見込む。
買収は日立製作所の手元資金と銀行借り入れによる現金対価で行う。規制当局の承認が順調に進めば、2021年7月までにGlobalLogicを日立グローバルデジタルホールディングズの完全子会社にして買収を完了する予定。
買収でITセクターの事業強化
買収を通じて日立製作所が狙うのが、Lumadaを中心とする同社ITセクターの事業拡大と海外展開の推進だ。
現在、日立製作所のITセクターは基幹系システムを中心に、受託型でアプリケーション開発を引き受ける案件が多い。しかし今後、顧客企業の課題は一層複雑化することが予想される。そのため、課題を聞き取るだけではなく自ら顧客課題を炙り出し、なおかつそれをアジャイルに開発したソフトウェアソリューションで解決する姿勢が求められる。GlobalLogicの買収は、これまでどちらかといえばクラウド領域に寄りがちであった日立製作所の開発力を補完し、IT、OT、エッジデバイスの各領域にまたがるソリューション提案を可能にすると見込む。
買収の判断に至った理由については、GlobalLogicが他のデジタルエンジニアリングと比較して、高いソフトウェアエンジニアリング力や市場競争力を持つ点を挙げた。競争力については、GlobalLogicは2020年度売上見通しで前年比19.3%と高い成長率を達成している点や、顧客顧客のリピート率が9割を超えている点などを評価した。これに加えて世界30箇所にあるエンジニアリングセンターなどを活用し、Lumadaの海外売上伸長を目指す。
今回の買収の意義について日立製作所 執行役社長兼CEOの東原敏昭氏は「今後、CPS(サイバーフィジカルシステム)の重要性はさまざまな産業領域で増していく。製造業やインフラ事業ではエッジデバイスを通じた現場制御が、クラウド上にある経営状況のデータに基づいて行われるようになるだろう。それは、工場の現場情報が経営情報として使われるということであり、同時に経営判断がリアルタイムで現場制御を変えていくということでもある。こうした将来に向けて、当社で不足している開発力を高められるという点、また産業領域だけでなく金融やヘルスケアなど幅広い分野をカバーできるという点で、GlobalLogicを買収する意義があると判断した」と説明する。
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