自動車部品産業にこれから起こる5つの潮流:和田憲一郎の電動化新時代!(41)(4/4 ページ)
ほぼ1週間に2〜3度の割合でEVに関連するニュースが流れている。ここ1年で10年分に相当する情報量が発信されている印象だ。このように激流が押し寄せる中、エンジン車からEV(電気自動車)に向かうことで、自動車部品産業も危機に直面するのであろうか? 今後起こり得る潮流を見据え、どう考え、対応していくことが望ましいのか、筆者の考えを述べたい。
潮流4 EVピックアップトラックの躍進
2021年はEVピックトラック躍進の年でもある。ご存じのように、テスラは2019年12月にEVピックアップ「サイバートラック」を発表して話題となった。発売は2021年末から2022年にかけてと表明している。なぜテスラがEVピックアップトラックに参入したのか、その理由はいろいろあるが、筆者は米国の自動車マーケットの変化であると考えている。米国では乗用車カテゴリーと小型トラックカテゴリーに分類されるが、乗用車カテゴリーは年々減少している。ということは、いくらモデルSやモデル3を出しても、乗用車カテゴリーのマーケットが収縮している中では伸びが期待できない。それが最大の理由であろう。
一方、テスラによるピックアップトラック分野への参入は、GMやフォード(Ford Motor)の他、クライスラーを擁するステランティスにとって脅威であろう。このため、米国自動車メーカーは2021年から2022年にかけてテスラへの対抗として多くのEVピックアップトラックを投入することを表明している。これまでの状況はエンジン車のピックアップトラックに部品を提供しているサプライヤーにとっては厳しかったが、今後EVピックアップトラックが盛り上がればサプライヤーにとっては朗報であろう。
なお、米国以外にピックアップトラックが有望な地域がある。それはアジアである。特にタイは1tピックアップが市場の約半分を占めており、もしタイに他国の自動車メーカーがEVピックアップトラックを投入すれば、大きな脅威となる。直近開催されたバンコクモーターショーでも、中国メーカーから多くのEVやコンセプトカーが展示された。中国からのEV参入は「CHAdeMO」対「GB/T」という急速充電器の規格争いの面でも興味深い。
潮流5 配車サービス専用EVが台頭
滴滴出行は長年、配車サービス専用車を投入する機会を探ってきた。31社が参加する「Dアライアンス」を結成し、配車サービスにとってどのような機能が望ましいかなど検討を重ねてきた。筆者が2年前に北京にある滴滴出行を訪問した際にDアライアンスの状況について尋ねたところ、当時既にプラットフォームが完成しており、車体上部を開発中とのことであった。2020年11月の滴滴出行の発表によれば、車体はBYDと共同開発し、配車サービス専用EV「D1」として活用し始めるようだ。
なお、このような配車サービス専用EVは、顧客とドライバーとの使い勝手向上もあるが、同時に使用頻度が高いことから、これまで以上の信頼性や耐久性が求められると推察する。これを新たなビジネスチャンスと捉えることもできるのではないだろうか。
今回これから起こると思われる潮流5つを紹介した。自動車部品産業に関しては、エンジン車からEVに移行すると、雇用が失われるとの声もあるが、自動車というよりモビリディ関連分野として増々拡大していくのではないだろうか。
約4年前の「ドリーム(原題:Hidden Figures)」という映画を思い出す。当時のNASAで大型コンピュータを導入することになった際、これまで手計算で作業を行っていた黒人女性チームはもういらないと経営陣が言い出した。しかし、コンピュータを実際に動かそうとすると、多くのソフトウェアエンジニアが必要となることが分かった。このため、手計算をしていた黒人女性チームが中心となってソフトウェア技術を学び、米国人として初めて地球周回軌道を飛行した宇宙飛行士を影で支えたことがテーマとなった。
今回のEV化も、リスクとチャンスはあるが、うまく潮流をつかむことで、新たなモビリティ関連産業として、雇用を次々と生み出していくのではないだろうか。まだまだ、自動車部品産業にとっては、チャンスが広がっていると考える。
筆者紹介
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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