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自動車部品産業にこれから起こる5つの潮流和田憲一郎の電動化新時代!(41)(3/4 ページ)

ほぼ1週間に2〜3度の割合でEVに関連するニュースが流れている。ここ1年で10年分に相当する情報量が発信されている印象だ。このように激流が押し寄せる中、エンジン車からEV(電気自動車)に向かうことで、自動車部品産業も危機に直面するのであろうか? 今後起こり得る潮流を見据え、どう考え、対応していくことが望ましいのか、筆者の考えを述べたい。

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潮流3 空調システム部品、EVの準主役へ

 EVにとっての重要課題は、バッテリーしかエネルギー源がないことだ。そのエネルギーを活用してどうやって走行距離を伸ばすのか、いわゆる「エネルギーマネジメント」と呼ばれる分野がある。走行以外にも冷暖房などでバッテリーが消費されてしまうことから、「サーマルマネジメント(熱マネジメント)」も必要となる。

 これまでのEVの暖房と言えば、筆者がEV開発に携わっていた時代は、PTCヒーター方式であった。当時は、外気温が低いときに暖房性能や防曇機能を確保しようとすると、短時間で暖房可能な方式ではPTCヒーターが一番即効性があった。しかし、PTCヒーターは暖房の即効性には優れているものの、多くのエネルギーを消費する。最悪の場合、EVが持つバッテリーのエネルギーを半分まで使ってしまうという欠点があった。

 その後はヒートポンプ方式も生まれた。暖房の熱源として大気の熱を利用するため、PTCヒーター方式と比較すると、少ないエネルギーで暖房ができる特徴がある。しかし、ヒートポンプは外気温が低いときの暖房性能が劣ることから、ヒートポンプと小型のPTCヒーターをダブルで装着する方式なども生まれてきた。近年は、ガスインジェクションヒートポンプ方式も誕生している。これはヒートポンプ方式に対して、電動コンプレッサーで一度圧縮した冷媒の一部を再度電動コンプレッサーに戻して圧縮することで冷媒の流量を増やし、熱交換効率を高めて、ヒートポンプの暖房使用領域を高める方法である。

 さて、本題であるが、テスラは2020年発売の「モデルY」に対して、これまでと全く異なる暖房方式を採用した。「オクトバルブ付TMS(サーマルマネジメントシステム)モジュール」と呼ばれるものである。オクトバルブは、部品内部に2つの回転弁を内蔵し、コンピュータにより流量を8方向に差配できるシステムである。これにより、バッテリーやe-Axle(モーターやインバータ、トランスミッションを1つにまとめた部品)からの排熱を利用できるようにするとともに、極寒時はバッテリーが凍っているため、暖気を送り解凍を早めることができるなど、多彩な機能を備えている。さらに、テスラが得意とするOTAによりアップデートも可能となっている。

 テスラは、これまでキーとなる部品は自社開発することが多かった。上述の統合ECUもそうである。オクトバルブ付TMSモジュールに関しては、2016年から複数のパテントを出願しており自社開発したことが分かる。社内で試作を行い、試験結果を経て、2020年モデルYから搭載したのであろう。その後どうするのだろうと思っていたら、2020年秋発売のモデル3(マイナーチェンジ版)にも搭載されている。最量販車と位置付けるモデル3に搭載したということは、今後テスラ車全てに装着するという意思表示とみることができる。

 このように新しい技術でブレークスルーが生まれると、空調システムメーカーはテスラのTMSモジュールと自社の空調システムがどう違うのか、その比較を自動車メーカーに対して行っていくことが必須となる。また、テスラが採用しているバッテリーやe-Axleの排熱利用も時代の流れでもあろう。EVは一充電当たりの走行距離を比較されることが多いが、今後は暖房条件下における走行距離の比較など、空調システム部品がEVの準主役部品として脚光を浴びるのではないだろうか。


図表3:EV用暖房システムの変遷(クリックして拡大) 出典:日本電動化研究所

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