日産はe-POWERの燃費を25%改善へ、発電用エンジンの熱効率50%で実現:エコカー技術(2/2 ページ)
日産自動車は2021年2月26日、シリーズハイブリッドシステム「e-POWER」の次世代版向けに、発電専用エンジンで熱効率50%を実現する技術を開発したと発表した。リーンバーンを実現する新しい燃焼コンセプトの採用や排熱回収、エンジンを完全に定点運転とすることが可能なバッテリー技術を総合的に組み合わせることにより、熱効率50%を達成する。
新燃焼コンセプトは「内燃機関の燃焼と点火を究極まで設計すること」を目指した。具体的には(1)乱れの生成を極限まで抑えて強いタンブル流を形成すること、(2)タンブル流の渦の中心軸が常に気筒内の空間の中心に来るよう制御し、天下までタンブル流を保持すること、(3)点火タイミングの前に点火プラグ部分に合わせてタンブル流を整流すること、(4)点火プラグ部でサイクル変動の少ない安定した流速とすることにより、適度に伸長した放電チャネルを形成することの4つを重視することから「STARC(Strong Tumble and Appropriately stretched Robust ignition Channel)」と命名。STARC燃焼により、EGR30%の高希釈燃焼で熱効率43%を、空気過剰率λ=2以上のリーンバーンで熱効率46%を達成した。
開発技術はシミュレーションや透明で可視化できる単気筒エンジンの実機を用いて検証。また、既存の製品ラインアップにはない排気量1.5l(リットル)のターボエンジンも検証に使用した。「ストロークの長いエンジンを使っている。ターボは、ダウンサイジングして熱効率を高める上で必要だ。1気筒当たり500ccで検証した」(日産自動車 専務執行役員の平井俊弘氏)という。
エンジン熱効率の究極を目指すのが、e-POWERの基本方針
日産自動車が開いたオンライン説明会では、熱効率50%を達成した発電用エンジンが量産車に搭載される時期については回答されなかったが「エンジンの熱効率の究極を目指すという考えは、すでに出たモデルや、そう遠くないうちに投入する車両にも取り入れる。2025年には、e-POWERがエンジン車と同じような価値で買ってもらえるようにコストダウンも進めていく」(平井氏)という。
熱効率50%はバッテリーの出力で加速などに必要なパワーをカバーできることが前提となっており、現状では加速したいときにエンジンでの発電が必要になるなど完全な定点運転はできない。欧州で初投入するe-POWERで可変圧縮比エンジン「VCターボ」を発電用に使うのは、定点運転とはいかないまでも、加速が求められる場面においてもエンジンの運転領域を少しでも絞るためだ。平井氏は「可変圧縮比エンジンであれば、回転数を上げずに比較的低い回転域でパワーが出せる。通常なら6000回転までエンジン回転数が上がるところを、可変圧縮比エンジンであれば4000回転でも最高出力が出せる。熱効率50%のe-POWERを展開するまでは、こうした工夫を重ねていく」と説明した。
日産自動車は2030年代のできるだけ早い時期に新車販売を電動車100%とする目標だ。軽自動車やSUVなど量販セグメントでのEV投入と、e-POWERの両輪で電動化を進める。e-POWERの展開は日本とアジアの一部にとどまっていたが、欧州をはじめ他の地域にも展開していく。カーボンニュートラルの実現に向けては、エンジンの効率向上によるCO2削減、バイオ燃料など次世代燃料に対応した内燃機関の開発、再生材料の活用や、駆動用バッテリーの再利用など資源としてのバッテリーの循環など多方面から取り組む。
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