三菱重工が火力事業の構造改革を前倒し、呉のボイラー製造機能を長崎に集約:製造マネジメントニュース
三菱重工業が2020年度(2021年3月期)第3四半期業績について説明。コロナ禍の影響から少しずつ脱しつつある中で、世界的な脱炭素、カーボンニュートラルに向けた動きにより火力事業の課題が顕在化している。そこで、水素や蓄エネルギーなどのエナジートランジションを推進する事業体制への構造改革を前倒して実施することを明らかにした。
三菱重工業(以下、三菱重工)は2021年2月4日、オンラインで会見を開き、2020年度(2021年3月期)第3四半期業績について説明した。物流機器、冷熱・カーエアコン、ターボチャージャー、エンジンなどの中量産品事業が第1四半期を底に業績の回復途上にあり、全社の受注高、売上収益も増加するなど、コロナ禍の影響から少しずつ脱しつつある。その一方で、世界的な脱炭素、カーボンニュートラルに向けた動きにより火力事業の課題が顕在化しており、水素や蓄エネルギーなどのエナジートランジションを推進する事業体制への構造改革を前倒して実施することを明らかにした。
2020年度第3四半期累計(2020年4〜12月)の連結業績は、受注高が前年同期比15.7%減の2兆2359億円、売上収益が同8.9%減の2兆6033億円、事業利益が同85.7%増の237億円、親会社の所有者に帰属する当期利益が同96.7%減の33億円となった。年間で1200億円を計上する予定のSpaceJet関連の損失が、事業利益で1031億円、当期利益で810億円のマイナス影響があるものの、その影響を除いた定常収益では業績が改善しつつある。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響では、中量産品を扱う物流・冷熱・ドライブシステムセグメントの売上高はCOVID-19前の当初計画比20%減まで回復しており、通期では同15%減まで戻す見通しである。民間航空機向けエンジンは当初計画比半減という想定の範囲内で推移しているものの、民間航空機の構造体事業(ティア1)は第2四半期の回復基調からCOVID-19の再流行で再び落ち込んでいる状態。ティア1の通期売上高は、当初計画比10〜30%減という見通しをさらに下回ることになるという。
IGCCの商用初号機で初期不適合と納期遅延が発生
これらの事業以上に厳しい状況にあるのが、三菱重工の売上高の約40%を占めるエナジーセグメントの中核である火力事業だ。現在の火力事業はGTCC(ガスタービンコンバインドサイクル)と石炭火力を用いるスチームパワーから成るが、日本を含めた世界的な脱炭素、カーボンニュートラルの動きによりスチームパワーの新設需要が急激に落ち込んでいる。
三菱重工の火力事業の状況。GTCCは新設、アフターサービスとも堅調に推移する見込みだが、スチームパワーは新設の規模が急激に減少している。さらにスチームパワーは、さまざまな要因があったものの450億円の損失も計上した(クリックで拡大) 出典:三菱重工
さらにスチームパワーについては、国内案件の工事費の高騰に加えて、IGCC(石炭ガス化複合発電)の商用初号機における初期不適合と納期遅延が発生し、安定的な収益を見込んでいたアフターサービス事業の実施時期がCOVID-19の影響で後ろ倒しになるなどして、2020年度第3四半期累計業績で450億円もの損失を計上している。
再生可能エネルギーの拡大が進み、火力発電の新設が市場縮小する流れは加速していることから、火力事業の構造改革を前倒しで進め、新たに注力を表明しているエナジートランジション事業の取り組みを強化する。具体的には、三菱パワー傘下で火力事業のボイラー製造を担ってきた呉工場(広島県呉市)と長崎工場(長崎県長崎市)のうち、呉工場のボイラー製造機能を、2022年度末をめどに長崎工場に集約する。呉工場は、ボイラーサービスや環境プラントに関する機能を強化し、人員削減は行わない。
また、三菱パワーと三菱重工のコーポーレート機能の一体運営を進めて固定費を削減する他、2021年4月には三菱パワーのエナジートランジション推進部門を三菱重工に移管・統合しリソースの結集と増強を図る。三菱パワー 取締役社長 CEOの河相健氏は「時代に必要とされる企業への移行を早急に進めていきたい」と述べている。
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