「ニッサン インテリジェント ファクトリー」が目指すもの:スマート工場EXPO(2/2 ページ)
「第5回 スマート工場 EXPO〜IoT/AI/FAによる製造革新展〜」の基調講演に日産自動車 常務執行役員 アライアンスグローバルVP 車両生産技術開発本部担当の平田禎治氏が登壇。「ニッサン インテリジェント ファクトリー〜技術革新による次世代のクルマづくり〜」をテーマに同社の取り組みを紹介した。
「同期生産」を目指すAPW
これらを支える役割を担う生産技術についても革新を進める。日産自動車の生産技術としては、もともとの日産生産方式(Nissan Production Way、NPW)を基本とし、その上で、ルノーとのアライアンスを生かし、相互にモデルを互いの工場で生産するアライアンスプロダクションウェイ(Alliance Production Way、APW)を導入している。サプライヤーから工場、販売までを同期した生産方式で、ユーザーの要望に応えた製品を納期通りに提供できる仕組みを構築している。
APWの目指す姿は、受注に合わせてサプライヤーを含めて同期しながら生産を進める「同期生産」である。ユーザーの注文を受けるところからスタートし、車種、色、グレード、オプション、納期などの情報を基にシステムで整理し、順序と時間の決まった生産計画を作成する。この計画はサプライヤー、生産工場、物流会社、納車前のサービスセンターに向けて一斉に送信される。
サプライヤーでは日産自動車またはルノーから送られてきた、生産計画に沿って、同期生産を開始する。生産された部品は、車両の組み立て時間に合わせて、予定時刻通りに到着したトラックに積み込まれ、車両工場に納品される。エンジンやトランミッションなどのユニットは、車両完成時の数日前から同期生産を始める。車両と同じ順序で生産されたエンジンは同順序で車両工場に輸送され、直接組み付けラインに供給される。
クルマの骨格を作る車体の生産プロセスは、車両完成の前日にスタートする。クルマの種類に合わせて、自由に位置決めできるNCロケーターと溶接ロボットにより、さまざまな車種を自由な順番で生産できる。サプライヤーから計画通りに納入された部品は、作業指示装置に従って1台分ずつまとめられ、時間通りに組み立てラインに供給される。この部品供給方式(ヒット供給)により、異なる車種の組み立てが容易になり、品質と生産性を向上させることが可能となっている。
ニッサン インテリジェント ファクトリーの3つの柱
これらをさらに前に進める取り組みとして、2019年11月には“次世代のクルマづくりコンセプト”「ニッサン インテリジェント ファクトリー」を発表した。
「ニッサン インテリジェント ファクトリー」には3つの柱がある。自動運転化や電動化が進み複雑な機能を複数搭載する車両に合わせて生産ラインを革新する「未来のクルマを作る技術」、熟練技術者の技術を数値化してロボット制御に応用する「匠の技で育つロボット」、女性や高齢者も働きやすい環境づくりを進める「人とロボットの共生」の3つである。
この中で「未来のクルマを作る技術」では、「電動化」「知能化」や「コネクテッド」など、より高度で複雑な技術が搭載されていく中で、生産ラインを革新することで高度化したクルマの生産に対応することを目指す。例えば、パワートレインユニットの一括搭載システムを導入した他、ボディーとバンパーの一体塗装技術の開発も進めており、これにより、CO2を25%低減する。
「匠の技で育つロボット」では、熟練技術者である匠の磨き抜かれた技を数値化して、ロボットに伝承する他、匠はさらなる現場改善や、自動化できない感性品質、複雑化する技術への対応など、最高品質のクルマづくりを支えていく。その事例としては、匠がハケやヘラでシーリングの塗布をして仕上げる際の、力加減や動かす角度を数値化して、ロボットに伝承することで、匠の手の動きを忠実に再現することを可能にしたことなどがある。
「人とロボットの共生」については、人には難しい作業をロボットが助けることで、人が働きやすい環境を作るとともに、女性や高齢者も活躍できる工場にすることで、働き方の多様化を加速させていく取り組みだ。
この他、デジタル化に関してはAIやバーチャル技術などの導入を推進する。その一環として「予知予防保全」に取り組んでいる。生産ラインが故障などで止まることによるロスは大きく、また、設備の老朽化も進んでいることも考慮し、生産設備の電流・電圧、振動などを測定し、工場中をネットワークで結び、集中管理室で対応するシステムの構築を進めているところだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 日産の工場はどう変わるのか、国内外でIoT本格導入とロボット活用拡大
日産自動車は2019年11月28日、横浜市の本社で会見を開き、次世代の自動車生産のコンセプト「ニッサンインテリジェントファクトリー」を発表した。 - 日産が事業構造改革を再スタート、まずは今後1年半で新型車12モデル
日産自動車は2020年5月28日、事業構造改革計画を発表した。同社は2019年5月に2022年へ向けた中期経営計画を発表したが、代表執行役社長兼CEOの内田誠氏が2019年12月に就任した際に中計見直しに言及していた。 - 自動運転の最大の課題は「人とクルマの関係性」
自動車技術会が開催したイベントで、日産自動車 電子技術開発本部 IT&ITS開発部 ITS開発グループ シニアスタッフの赤津洋介氏が「Active Safety Systemの現状と未来」をテーマに、先進運転支援システムや今後の自動運転システム開発の方向性について語った。 - スマート工場は“分断”が課題、カギは「データ取得」を前提としたツールの充実
工場のスマート化への取り組みは2020年も広がりを見せているが、成果を生み出せているところはまだまだ少ない状況だ。その中で、先行企業と停滞企業の“分断”が進んでいる。新型コロナウイルス感染症(COVID−19)対応なども含めて2021年もスマート工場化への取り組みは加速する見込みだが、この“分断”を解消するような動きが広がる見込みだ。 - スマートファクトリー化がなぜこれほど難しいのか、その整理の第一歩
インダストリー4.0やスマートファクトリー化が注目されてから既に5年以上が経過しています。積極的な取り組みを進める製造業がさまざまな実績を残していっているのにかかわらず、取り組みの意欲がすっかり下がってしまった企業も多く存在し2極化が進んでいるように感じています。そこであらためてスマートファクトリーについての考え方を整理し、分かりやすく紹介する。 - エッジは強く上位は緩く結ぶ、“真につながる”スマート工場への道筋が明確に
IoTやAIを活用したスマートファクトリー化への取り組みは広がりを見せている。ただ、スマート工場化の最初の一歩である「見える化」や、製造ラインの部分的な効率化に貢献する「部分最適」にとどまっており、「自律的に最適化した工場」などの実現はまだまだ遠い状況である。特にその前提となる「工場全体のつながる化」へのハードルは高く「道筋が見えない」と懸念する声も多い。そうした中で、2020年はようやく方向性が見えてきそうだ。キーワードは「下は強く、上は緩く結ぶ」である。