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ビタミン代謝物を簡単に定量できる超分子バイオセンサーを開発医療技術ニュース

金沢大学と京都大学は、生体試料中のビタミン代謝物を迅速かつ簡便に定量できる超分子バイオセンサー「P6A」を開発した。検体とP6Aを混合して蛍光測定するだけで、熟練スキルと多大な時間が必要だった従来法と同等の結果を得られる。

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 金沢大学は2020年12月9日、生体試料中のビタミン代謝物を迅速かつ簡便に定量できる超分子バイオセンサー「水溶性ピラー[6]アレーン(P6A)」を開発したと発表した。京都大学との共同研究による成果だ。

 体内で欠乏すると、皮膚炎や下痢、認知症の症状などを引き起こすとされるニコチンアミド(ビタミンB3)は、ニコチンアミドN-メチル基転移酵素(NNMT)によって1-メチルニコチンアミド(1-MNA)となり、尿中に排泄される。1-MNAの一部はアルデヒドオキシダーゼによる酸化で2py(N1-メチル-2-ピリドン-5-カルボキサミド)、4py(N1-メチル-4-ピリドン-3-カルボキサミド)になり、同じく尿中に排泄される。そのため、尿中の1-MNA濃度を測定すれば、患者の体内にあるニコチンアミド量を推測できる。

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ニコチンアミドはNNMTによって1-MNAに代謝される(クリックで拡大) 出典:金沢大学

 また、最近の研究で、NNMTを抑制すれば、さまざまながん細胞の増殖を抑えられることが分かってきた。しかし、NNMT阻害剤を開発するには、1-MNAの産生を抑える化合物を、数万の候補から同定する必要がある。

 P6Aは、金沢大学が初めて合成に成功した環状合成化合物「ピラーアレーン」を基に作成したもので、1-MNAのような分子サイズの陽イオン分子と結合するように設計されている。研究グループは、P6Aと1-MNAが特異的に結合すること、結合によってP6Aの蛍光が消えることを発見した。

 また、プロトン核磁気共鳴と等温滴定型カロリメトリーにて解析した結果、P6Aは1-MNAと1:1で安定な錯体を形成することが分かった。結合の選択性は高く、P6Aは1-MNAと化学構造がよく似ているニコチンアミドや、1-MNAから生成される2pyとはほとんど結合しなかった。

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上:1-MNAと特異的に結合すると、P6A由来の蛍光が消える。下:P6Aはニコチンアミドや2pyとはほとんど結合しない(クリックで拡大) 出典:金沢大学

 続いて、夾雑物が含まれる無細胞酵素反応液やマウスの尿試料を用いた解析結果でも、P6Aは1-MNAと特異的に結合し、1-MNA濃度に依存して蛍光が消失することを確認できた。なお、蛍光値を測定するだけで1-MNAを定量できる、この簡便な方法で得られた定量結果は、熟練スキルと多大な時間を必要とする従来の質量分析法と同等だった。

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無細胞酵素反応液とマウス尿試料中における従来法、P6A蛍光法の測定結果(クリックで拡大) 出典:金沢大学

 P6A蛍光法は、特定の代謝物を簡便に認識できるバイオセンサーであり、代謝物の測定方法の開発に寄与する。今回の成果は、NNMT阻害剤の大規模スクリーニングや、がんの迅速な診断に活用されることが期待される。

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