日本のモノづくりDXはミドルアップミドルダウンで、日本式を訴求するシーメンス:FAニュース
シーメンスは2020年12月3日、日本において製造業のDX(デジタル変革)を推進し、CADやPLM(Product Lifecycle Management)などの製造系ソフトウェアと、PLC(Programmable Logic Controller)などのハードウェアを組み合わせた展開を強化する新戦略を発表した。
シーメンスは2020年12月3日、日本において製造業のDX(デジタルトランスフォーメンス、デジタル変革)を推進し、CADやPLM(Product Lifecycle Management)などの製造系ソフトウェアと、PLC(Programmable Logic Controller)などのハードウェアを組み合わせた展開を強化する方針を発表した。
シーメンスはPLCなどのオートメーション機器の展開に加え、ここ10年で製造系ソフトウェア企業の買収を進めてきた。これにより「製造業のデジタル変革において、世界で唯一ハードウェアからソフトウェアまでを一貫して提供できる企業だ」(シーメンス代表取締役社長 兼CEOの堀田邦彦)としている。
これらの製造業の工程全てをカバーするポートフォリオを生かし、シーメンスでは「デジタルエンタープライズ」というコンセプトを打ち出し、モノづくり工程において「製品」および「生産」において、パフォーマンスデータを連携させる「デジタルツイン」化を進める考えである。堀田氏は「4つの段階でデジタルツインを提供していく。これらを水平統合する基盤となるのがPLMの『Teamcenter』だ」と語っている。
こうした工程間をデータにより水平統合していく動きに加え、OT(制御技術)とIT(情報技術)を融合させる垂直統合も推進する。ここではローコードアプリ開発の「Mendix」が重要な役割を果たすとしている。「垂直統合ではクラウド戦略を強化していく。クラウド上でさまざまなデータを連携できるようにする。IoTデータを活用する『Mindsphere』などと各種ITシステムとの連携を進めるが、その際、プラットフォームとして位置付けられるのが『Mendix』だ」と堀田氏は語っている。
これらの展開により、プロセス産業からディスクリート産業まで「あらゆる産業をカバーできることがシーメンスの強みだ」と堀田氏は強調する。
日本のDXはミドルアップミドルダウンで
日本のDXの進捗具合について堀田氏は「格差が広がっている。日本では対外発表しない企業も多いのであまり知られていないところもあるが、実際に関わっている企業などの動向を見ていると、グローバルで見ても先進的なDXを進めている企業は多い。その一方でデジタル化を全く進めていない古典的な業務プロセスの企業も多く存在しており、両極端な状況だ」と述べている。これに対しシーメンスでは「最先端を進む企業には、グローバルでの知見から新たな価値を実証などを進めながら切り開いていくような取り組みを支援し、これから始めるような企業にはパッケージ製品などで取り組む障壁を下げるような製品を用意し、両面で展開していく」(堀田氏)としている。
その上で、日本での特徴として「シーメンスはドイツが本社の企業で、基本的には同じビジョンで事業を進めているが、日本においてドイツと同じような考え方で進めても受け入れられない。トップダウンで全てを進めるようなやり方はそぐわないと考えている。その中で最近の取り組みで正解の形として見えつつあるのが、ミドルアップミドルダウンというかキーになる中間層を中心に進めていくという考え方だ。ここ最近でうまくいっているプロジェクトを見ると、本部長や事業部長クラスの方が、役員や経営層の承認を得ながら、現場と一緒になって取り組むという形が数多く見られる。こうした協調型のDXの推進が日本における起爆剤になると考えている。こうした動きを支援していく」と堀田氏は述べている。
また、シーメンスでは新たにSAPとの連携を発表しているが「シーメンスではエンジニアリングチェーンを中心にPLMにおいて水平軸のソリューションをそろえてきたが、ERPによる基幹システムとの連携を行うことでできることは多い。ERPとPLMの組み合わせが製造業としての基幹システムとなると考えている。当面の具体的な接点については、MES(製造実行システム)の領域だと捉えている。そこでの連携が最も早く進む見込みだ」と堀田氏は語る。
これらの取り組みにより日本市場では2桁成長を持続させる方針だ。「具体的な数字は言えないが2桁成長は持続させる考えだ。高い目標でいえば、近い将来に今の規模の2倍には成長できると考えている。1つはDXによる成長だ。そしてもう1つがハードウェアの拡大である。日本市場ではソフトウェアが強く、世界的には強いオートメーションハードウェアは成長の余地がある状態だ。これをDXの流れにより、ソフトウェアとハードウェアを組み合わせて提供する流れが出てきている。実際にそういうプロジェクトも増えてきており、こうした流れで成長できると考えている」と堀田氏は抱負を述べている。
関連記事
- SAPと新たに提携、“真のデジタルスレッド”に向け拡張目指すシーメンスの戦略
ドイツのSiemens(シーメンス)は2020年7月16日、グローバルでのデジタルイベント「Digital Enterprise Virtual Summit」を開催。その中でシーメンスでデジタルインダストリー部門COO(Chief Operating Officer)を務めるヤン・ムロジク(Dr. Jan Mrosik)氏が「産業の未来を共に創る」をテーマに講演を行い、同社のデジタルエンタープライズ戦略や、SAPとの提携について説明した。 - AIとCAE、ビッグデータの融合で匠の技は残せるのか――オムロンのチャレンジ
オムロンは1980年代からCAEの活用環境を整備してきた。さらに今、取り組もうとしているのが、ビッグデータおよびAI(人工知能)とCAEの融合だ。将来は実測とCAEを一致させることによる最適な設定などが自動で可能になるとする。さらに、この取り組みによって職人の技術を可視化して、後世に残していくことができるのではないかと考えているという。同社でCAE業務を推進するオムロン グローバルものづくり革新本部 生産技術革新センタ 要素技術部の岡田浩氏に話を聞いた。 - クラウドCAEで静解析してみよう
今回は、クラウドベースの3D CAD「Fusion 360」を使って静解析してみました。記事執筆に使っているノートPCでも動かせます。 - 5分で分かるIoT時代のPLMとは
IoT時代を迎えて製造業のためのITツールもその役割を変えつつある。本連載では、製造ITツールのカテゴリーごとに焦点を当て、今までの役割に対して、これからの役割がどうなっていくかを解説する。第4回はPLMだ。 - スマートファクトリー化がなぜこれほど難しいのか、その整理の第一歩
インダストリー4.0やスマートファクトリー化が注目されてから既に5年以上が経過しています。積極的な取り組みを進める製造業がさまざまな実績を残していっているのにかかわらず、取り組みの意欲がすっかり下がってしまった企業も多く存在し2極化が進んでいるように感じています。そこであらためてスマートファクトリーについての考え方を整理し、分かりやすく紹介する。 - エッジは強く上位は緩く結ぶ、“真につながる”スマート工場への道筋が明確に
IoTやAIを活用したスマートファクトリー化への取り組みは広がりを見せている。ただ、スマート工場化の最初の一歩である「見える化」や、製造ラインの部分的な効率化に貢献する「部分最適」にとどまっており、「自律的に最適化した工場」などの実現はまだまだ遠い状況である。特にその前提となる「工場全体のつながる化」へのハードルは高く「道筋が見えない」と懸念する声も多い。そうした中で、2020年はようやく方向性が見えてきそうだ。キーワードは「下は強く、上は緩く結ぶ」である。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.