withコロナ時代に果たすべきIoTの役割、AIによる「社会の自動運転」を見据えよ:ET&IoT Digital 2020(2/2 ページ)
オンライン開催されている「ET&IoT Digital 2020」において、東洋大学 INIAD 学部長の坂村健氏が「ウィズコロナ時代のIoT」をテーマにとする基調講演に登壇。コロナ禍におけるIoTの役割や、坂村氏が会長を務めるトロンフォーラムの活動を紹介した。
坂村氏「IoTの基本はContext Awareness」
さらには、経済や社会の維持をテーマに、テレワークの推進とともに、テレワークの環境を充実するために住宅の空間の充実にも取り組む必要がある。
INIADでは、テレワークのためのコンセプト家具づくりなどを進めている。しかし「テレワークにも限界があることは確かだ。人が求める共感の場や、人手を必要とする現場も存在している。将来的には完全没入型体感VR(仮想現実)などが可能になるかもしれないが、その時“現場”でドアノブを回したりするのはIoTということになる」(坂村氏)とし、IoTが未来に向けてより重要になることを訴えた。
現在、経済や社会とCOVID-19対策の両立に向けて、微妙なバランスを取り続けるという方法が取られている。アクセルを踏みながら同時にブレーキ制御をするような状況だが、ポイントは状況認識にあり、現在、人々が置かれている状況を正しく理解し、最適制御を自動的な行うことが大切になる。将来的には、AI(人工知能)による「社会の自動運転」なども予想される。坂村氏は「IoTの基本は、Context Awareness(世の中の状況を捉える技術や、それらに関する概念のこと)であり、いままさにこうした技術が求められている」と結論付けた。
続いて坂村氏は、トロンフォーラムの活動を紹介した。2020年の取り組みとしてはTRONプロジェクトの最新版リアルタイムOSである「μT-Kernel3.0」の訴求に力を注ぐ。μT-Kernel3.0はIoTエッジノード向けに最適化、軽量化を図り、IoTに必須の多様な通信ミドルウェアや通信デバイスに対応するなど機能も充実した。ソースコードもGitHubで公開しており、バージョンアップで対応CPUやデバイスドライバも追加した。また、各種の開発環境にも対応する。
さらにエッジノードだけではなく、IoT社会実現のために「アグリゲートコンピューティング(Aggregate Computing)」の取り組みも進めている。現在のネット対応家電はAPI制御が可能だが、日本の場合オープンAPIに踏み切れず各社の製品が互いにつながらずクローズドだった歴史もあり、世界とのズレがあった。最近では理解が深まり、できる限りオープンなAPIを提供するケースもみられていることから、それに関わるプラットフォームの重要性が増してきた。「機能・サービス」と「設備・手段」をデタッチし、汎用的なプラットフォームを構築して、その上で個々の具体的機能を実現するために、IoT全体にもコンピュータのOSに当たるものが必要になる。
そこでトロンフォーラムが提唱しているモデルがアグリゲートコンピューティングである。「それぞれのエッジノードに対応する、いわゆるアバターのようなものがクラウドにあり、そのクラウドの中のIoTアグリゲーターを中核として、さまざまな情報をクラウドの中で交換する」(坂村氏)というモデルを用いており、INIADの建屋はインテリジェントビルとしてアグリゲートコンピューティングによって制御されている。
また、トロンフォーラムは、IoTの世界につながるそれぞれのモノを区別するIDとして「ucode」を発行することも重要な機能となっている。このucodeにより、機器やサービスの識別、属性情報管理、認証と権限の管理をオープンかつ統合的に行うができる。
なお、トロンフォーラムでは、テクノロジーによって障害者を助ける「TRONイネーブルウェアシンポジウム」を2020年12月5日にオンラインで開催する。また、同年12月9〜11日には、東京ミッドタウンホールで「2020 TRON Symposium -TRONSHOW-」を開催し、リアル展示も行う方針である。
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