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DXにおける日本の弱点、デジタルアーキテクチャの重要性CEATEC 2020(2/2 ページ)

2020年10月20〜23日にオンラインイベントとして開催された「CEATEC 2020 ONLINE」において、「“デジタルアーキテクチャ”で作り出す産業構造のDX」をテーマに、経済産業省と情報処理推進機構(IPA)の特別セッションが行われた。本稿ではその内容を紹介する。

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「アーキテクチャを理解しないとビジネスで勝てない」

 同特別セッションでは、東京大学 大学院 工学系研究科教授の松尾豊氏、東京大学 大学院 経済研究科教授の柳川範之氏、Scrum Ventures 創業者兼ジェネラルパートナーの宮田拓弥氏、NEC 執行役員 クロスインダストリーユニット担当の受川裕氏、慶應義塾大学 大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授でDADCアドバイザリーボード座長の白坂成功氏(モデレータ)によるパネルディスカッションも実施。「デジタルアーキテクチャで作り出す産業構造のDX」をテーマに、「アーキテクチャを理解しないとグローバルなビジネス競争に勝てないのはなぜか」などをテーマに意見を出し合った。

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パネルディスカッションの様子

 この中で、受川氏は「欧米諸国では、アーキテクチャ志向が高く、法令やレギュレーションと同じくらい重視して取り組まなければビジネスが行えないことを実感している。最近ではインドなどでもこの方向に変わってきた。海外では日本企業単独では事業を展開できず、現地企業と一緒にビジネスを展開するため、それぞれの役割を決めるアーキテクチャの提示が不可欠となっている」とアーキテクチャの重要性について述べた。

 また「AI事業で日本企業が世界で事業を展開していくためには」の問いに、松尾氏は「AIの視点からみると、変化に対応するスピードだと考える。脳の神経回路もネットワーク構造となっているが、それはサンプル効率がいいためで、少ないデータでもいかに早く、正しく学習できるかという点に、階層構造は効いてくる。アーキテクチャは階層構造であるからこそ、さまざまな変化に柔軟に対応できる。グローバルで勝っていくためには、そうした変化に対応できるスピードは必要だ」などと答えた。

 続いて、投資家の立場から宮田氏は「スタートアップへ投資をする中で『業種の垣根がなくなる』もしくは『業種が入り乱れながら新しい産業が生まれている』という状況にあるのが2020年のかたちだ。(既存の企業ではなく)新しいプレイヤーによりその産業が新しく定義されるケースもみられる。オープンイノベーションを行う場合、以前は1社の課題解決のためスタートアップと連携する形が多かったが、現在、携わっているスマートシティーのプロジェクトではMaaS(Mobility as a Service)など、さまざまな企業とデータやシステム連携ができないと、競争力のあるビジネスは展開できない。そのためにもアーキテクチャは大事になる」と述べた。

 柳川氏は「サイバーとフィジカルの連携や、業界の壁を越えた企業間の連携など、新しいつながりが重要になっている。また、技術と法律や制度、規制も新しい連携を前提として考えないとうまくいかない。こうした新たな枠組みをアーキテクチャとして頭の中で組み立てていくことが大事なポイントとなる。企業側が新しいアーキテクチャをデザインし、場合によれば望ましい規制も作っていくという発想が重要となる」と、能動的な姿勢が必要であることを強調した。

生活者にメリットをもたらすアーキテクチャとは

 2つ目の問いである「生活者視点のアーキテクチャの不可欠性、また、どのような知を結集するのか」については、受川氏は「アーキテクチャを別の視点からみると協調と競争を明確に分ける構造になっている。欧州のスマートシティーではプラットフォームは国主導で作り上げ、大企業が加わり各地で展開している。その上で、アプリケーションはスタートアップや地場企業が参入しやすい構造になっている。そうすることで、重厚長大の企業よりも生活者視点に立ったアプリケーションが開発されるようになり、生活者のメリットが大きい。コロナ禍においても市民が必要なアプリをいち早く作って公開するという動きがありコロナ対策にも有効だった」と述べた。

 松尾氏は「全ての産業の起点は生活者であり、そのニーズを早く捉えられるほど、経済活動としては付加価値を作り出しやすく、効率的な生産ができるようになる。その方向に向かっていくためには全体設計となるアーキテクチャが必要になる。人材に関してはネット系の人材が重要となる。インターネット業界の経験をもち、今はリアルな産業に携わっていたり、その逆だったり両方の知見を持つ人が加わってもらえればさらに盛り上がるだろう」とデュアルスキルを持つ人材への期待感を示した。

 宮田氏は「ここ数年ネットとリアルとの連携が重視されるケースが増えてきた。日本は自動車産業をはじめリアルなモノづくりが強いが、ネット業界との掛け算の中で新しい産業が出てくる面白いタイミングが来ている。リアルの強みとネット業界の人材の力を組み合わせていただきたい。一方、難しいと感じるのがグローバル対応であり、言語の問題や文化の壁は越えるのが難しい。そのためにもオープンAPIやアーキテクティングがクリアになっていれば、世界中のスタートアップが日本のエコシステムに入る可能性は高まる」とした。

 柳川氏は「本来、経済活動を活性化することと生活者の利便性の向上は矛盾しないが、幾つかの理由でずれる可能性がある。規制や法律が合っていないこと(はんこや対面面談なども含まれる)、協調の失敗、不正行為を防止するための技術と規制はトレードオフの関係にあり技術の果たす役割の重要性の高まりなどがある。また、多様な知を集結することの重要性は大きいが、連携がうまくいかないと失敗する。多様に人材をつないで、大きな方向性を作っていけるような人材が日本では少ないので、育てていくことが大切だ」と指摘した。

日本ではなぜアーキテクチャがうまく機能しないのか

 その他「アーキテクチャの構築はなぜ日本ではなぜうまくいかなかったか」の質問に対しては「日本では匠の技術の存在が大きかった。複雑化した現在では全体的に見る必要がある」(受川氏)、「日本ではある1つの領域に深く入り込んでいく人が評価された。しかし、今起こっているのは、確固とした領域は壊れており、以前とは評価軸が全く変わってきている。サイバーとフィジカルや、工学と法律など複数分野の知見を活用できる人を評価促進する動きが求められる」(松尾氏)などの意見が出た。

 「日本がフロントランナーになるにはどうすればよいか」の問いについては、宮田氏が「日本で『GAFAのような企業を生み出すのは可能か』という議論はすこしずれている。例えば自動車産業などモノづくりで勝負をするのではなく、強いといわれるクルマにインターネットがつながる中でチャンスを探るということが重要になる。この部分に強みを持つことができれば可能性が出てくる」と述べた。

 最後に「日本ではデータの帰属について、どのような立ち位置をとればよいのか」とデータのオーナーシップについての問いが寄せられた。米国はデータを巨大企業(GAFA)が持ってビジネス化している。一方、個人主義の発達した欧州ではデータは個人に帰属する。中国では政府がデータを掌握するという状況が生まれている。柳川氏は「日本の文化的背景を考えると、国が全てのデータを管理するということは無理だ。逆にその歴史的な背景を生かし、データの信頼性が担保された環境で活用していけるようにする仕組みを作ることは可能だ。データ活用という視点で考えれば、データを安心して流通させる仕組みをどうするかということは、帰属がどこにあるかということよりも重要である。こういう新たな視点を、日本が技術を使って世界に提示していくことができると見ている」と意見を述べた。

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