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「手術で失った声を取り戻す」、東大院生たちが全力で挑む医療系デバイス開発モノづくりスタートアップ開発物語(5)(3/3 ページ)

モノづくり施設「DMM.make AKIBA」を活用したモノづくりスタートアップの開発秘話をお送りする本連載。第5回は喉摘者向けにハンズフリーの発声支援デバイスを開発する、東大院生らのグループSyrinxを紹介。数々の開発課題に悩む彼らだが、研究を通じて人間の声に関するある知見を得たことが突破口となる。

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デザイナーとの出会いで世界大会へ

――出来栄えに満足しましたか。

竹内氏 技術屋としては良いと思っていました。しかし、声帯を失った方々たちからは「カッコ悪い」「こんなの付けたくない」と散々な評判でした……。

 自分としても、デバイスにデザイン性が求められるのは分かっていたので、知り合いを通じて、デザイナーの小笠原佑樹を紹介してもらいました。彼に事情を説明すると、彼がササッとスケッチを描いてくれたんです。

試作したデバイスなどの画像
試作したデバイスの画像。本文に登場する1号機は写真上段左、2号機は上段左から2番目、3号機は写真上段右から2番目。上段右は、小笠原氏のデザインに基づきブラッシュアップしたモックアップ。小笠原氏が描いたスケッチは下段*出典:Syrinx[クリックして拡大]

――小笠原さんと出会うことで、「カッコいいデバイス」になっていくのですね。

竹内氏 学生が社会課題のソリューションを競い合うMicrosoft主催の「2020 Imagine Cup」のアジア大会で、小笠原が描いたスケッチを手に「今後デバイスはこう変わります」と言ったら、審査員から大好評で。小笠原のスケッチで世界大会進出が決まったようなものだと思っています。

 世界大会は3カ月後の2020年5月でした。それまでにスケッチ通りになるように開発したのが現在の形です。おかげさまで、「2020 Imagine Cup」の世界大会では準優勝できました。

 現在のプロダクトは、ベルトの長さを調整することで振動子が当たる部位を変えられるようにしています。これは、デバイスを使う人たちは手術痕の位置が微妙に違うため、機能性を向上するために行いました。振動子の周りのリングを好きな色に取り換えられるようにしたので、その点でデザイン性も向上したと思っています。

 PCやスマホを経由して使えるモジュールも開発しました。モジュール内には通信機能のほか、電源や振動を増幅させるアンプなどが入っています。このモジュールを使うことで、音量をアップさせたり、声のパターンを切り替えたりできます。今は「男性の低めの声」「男性の高めの声」「女性の声」の3種類が選べるようになっていて、それぞれの声質をもっと人間の声に近づけようと改良を続けています。


Syrinxのメンバー。左から、ハードウェアエンジニアのLee Kunhak氏、小笠原氏、竹内氏、ソフトウェアエンジニアのAhn Jaesol氏*出典:Syrinx[クリックして拡大]

――2019年7月のスタートから一気に開発が進んだようですが、まだ会社は設立していませんね。

竹内氏 メンバーは4人いますが、韓国からの留学生であるAhn君とLee君を含めてまだ全員学生です。今は学生だから得られるファンドなどを活用して、デバイスに磨きをかける時期だと思っています。振動子については改良すべき余地がまだまだ残されているので、研究者やメーカーの方々にぜひご協力いただきたいと考えています。

 起業すると事業性や成長性がどうしても問われる。それらの計画について、まだまだ詰めるべき点はあると感じています。また、声帯を持っている人からは「声質を変えるデバイスなら欲しい」という意見もいただいており、広い視野でデバイス開発をする必要性を感じています。

 ただ、僕らの原点は「手術で声を失った人の音声を取り戻す」ことにあります。声帯摘出手術を受けた方に話を伺うと、ほぼ全員が「自分の口から声を出すことが願いです」とおっしゃいます。まずは、そうした望みをしっかりとかなえられるデバイスの実現を目指します。

⇒連載「モノづくりスタートアップ開発物語」バックナンバーはこちら

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