製造業のDXでも必須となるプラットフォーム戦略、その利点とは?:製造業に必要なDX戦略とは(2)(2/2 ページ)
製造業でも「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に注目が集まる中、本連載では、このDXに製造業がどのように取り組めばよいか、その戦略について分かりやすく紹介している。第2回の今回は「プラットフォーム戦略」について紹介する。
DX戦略としてプラットフォームがもたらす価値
ここからは製造業向けのDX戦略として「プラットフォームがもたらすメリット」を考察していきます。ここでは、同一プラットフォーム上にあるアプリケーションの組み合わせで「エコシステム」を構築することを前提とします。その場合、筆者は以下の3つの利点があると考えます。
1.システムインテグレーション(SI)が不要
生産活動ではさまざまなシステムが必要になります。設計用のCADやPLM(Product Lifecycle Management)システム、現場管理のMES(製造実行システム)、生産スケジューラー、生産管理システムなどです。こうしたシステムを個別に導入した場合、システム間のデータを連携するためのインタフェースの構築が必要です。一方、同一プラットフォーム上で展開するアプリケーションでは、それぞれのデータ連携が標準仕様とされるのが一般的です。これはプラットフォームが定めた設計仕様に基づいて、各アプリケーションが開発されているためです。そのため、データ連携のためだけの新たな開発は不要となります。
2.データベースの一元的な運用
同一プラットフォーム上であれば、各アプリケーションのトランザクションデータは一元化されたデータベースに収納することができます。データベースを一元管理するメリットは、システムの垣根を越えた複数データを基にデータ分析が可能になることです。例えば、販売管理システムの持つデータと生産管理システムの持つデータを結び付けたKPI(重要業績評価指標)分析が容易に行えるような利点があります。
3.セキュリティを確保しやすい
データの重要性が高まる中で、これらのデータを守るセキュリティ対策は必須となります。顧客データ、販売データ、部品表、製造原価など、製造業が保有するデータは多岐にわたります。こうした重要なデータのストレージとしても、高度なセキュリティ機能の重要度は高まっています。しかし、これらを守る高度なセキュリティ対策のために個々の企業で大規模な投資をし続けることは難しくなりつつあります。そこで大規模なセキュリティ対策を取り続けられるプラットフォーマーに預けることでデータの安全を確保するということも利点だといえます。
2020年からは5Gサービスが開始されました。従来の4Gの20倍ともいわれる超高速通信は業務システム運用にも大きな変化を生むことが予見されます。コロナ禍によりリモート接続機会が増加し「いつでも・どこからでもストレス無くつながるシステム」の実現が求められる中で、セキュリティの確保をどうするのかというのは考えていかなければならない大きなテーマだと考えます。
今回の内容はいかがだったでしょうか。今後、B2B領域でもプラットフォーマー間の競合が本格化する可能性が高いと思われます。同時にERP(Enterprise Resources Planning)システムに代表される業務管理アプリケーションだけでなく、生産設備を制御する現場系システムもプラットフォームに移行する時が来るかもしれません。
次回は「クラウドアプリケーション活用戦略」と題して、業務用アプリケーションにおけるオンプレミス製品とクラウド製品の比較、そしてクラウドアプリケーションの将来像について考察していきます。
筆者紹介
栗田 巧(くりた たくみ)
Rootstock Japan株式会社代表取締役
【経歴】
1995年 マレーシア・クアラルンプールにてDATA COLLECTION SYSTEMSグループ起業。その後、タイ・バンコク、日本・東京、中国・天津、上海に現地法人を設立。製造業向けERP「ProductionMaster」と、MES「InventoryMaster」の開発と販売を行う。
2011年 アスプローバとの合弁会社Asprova Asiaを設立。
2017年 DATA COLLECTION SYSTEMSグループをパナソニックグループに売却し、パナソニックFSインテグレーションシステムズの代表取締役に就任。
2020年 クラウドERPのリーディングカンパニーRootstockの日本法人であるRootstock Japan株式会社の代表取締役就任。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 製造業がDXを進める前に考えるべき前提条件と3つの戦略
製造業にとっても重要になる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に注目が集まっている。本連載では、このDXに製造業がどのように取り組めばよいか、その戦略について分かりやすく紹介する。第1回の今回は、DXを進める中で必要になる前提条件と3つの戦略の概要について紹介する。 - いまさら聞けない「製造業のDX」
デジタル技術の進歩により現在大きな注目を集めている「DX」。このDXがどういうことで、製造業にとってどういう意味があるのかを5分で分かるように簡単に分かりやすく説明します。 - 製造業が「DX」を推進するための3つのステージ、そのポイントとは?
製造業のデジタル変革(DX)への取り組みが広がりを見せる中、実際に成果を生み出している企業は一部だ。日本の製造業がDXに取り組む中での課題は何なのだろうか。製造業のDXに幅広く携わり、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)のエバンジェリストを務める他2019年12月には著書「デジタルファースト・ソサエティ」を出版した東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター 参事の福本勲氏に話を聞いた。 - データを世界の共通言語に、リアルタイムで製品収益を見える化する安川電機のDX
「データを世界の共通言語に」をスローガンとし「YDX(YASKAWA digital transformation)」として独自のデジタル変革(DX)を進めているのが、産業用ロボットやモーターなどメカトロニクスの大手企業である安川電機である。安川電機 代表取締役社長の小笠原浩氏に「YDX」の狙いについて話を聞いた。 - 「モノ+データ」の新たな製造業へ、成果創出のポイントは「データ専門会社」
製造業のデジタル変革は加速する一方で2020年もさらに拍車が掛かることが予想される。その中で立ち遅れが目立っていたデジタル化による「モノからコトへ」の新たなサービスビジネス創出がいよいよ形になってきそうだ。ポイントは「専門の新会社設立」だ。 - 製造業のデジタル変革は第2幕へ、「モノ+サービス」ビジネスをどう始動させるか
製造業のデジタル変革への動きは2018年も大きく進展した。しかし、それらは主に工場領域での動きが中心だった。ただ、工場だけで考えていては、デジタル化の価値は限定的なものにとどまる。2019年は製造業のデジタルサービス展開がいよいよ本格化する。 - 日本版第4次産業革命が進化、製造含む5つの重点分野と3つの横断的政策(前編)
経済産業省は2017年3月に発表した日本版の第4次産業革命のコンセプトである「Connected Industries」を進化させる。より具体的な取り組みを盛り込んだ「Connected Industries 東京イニシアティブ 2017」を新たに発表した。本稿では2回に分けてその内容をお伝えする。