小さなヨットで取り組む自律“帆走”、漁業や海上タクシーへの貢献目指す:船も「CASE」(3/3 ページ)
自律“帆走”技術の開発に挑むスタートアップ企業がある。野間恒毅氏がCEOを務めるエバーブルーテクノロジーズだ。現在、ラジコンヨットをベースにした全長1mのプロトタイプと、船型からオリジナルで開発した2m級のトリマラン「Type-A」を用いて、自律帆走の実証実験を重ねている。
実証実験で機動性を確認、次は漁業での利用を視野に
1m級プロトタイプの実証実験では、東寄りの風、風速5〜7mと、船体サイズにしては強めの風を後ろから受けて葉山港から江の島沖に向けて帆走した。実証実験でともに航海した伴走艇は、針路の維持が難しかったのに対して1m級プロトタイプは設定した航路を維持して帆走し続けたという。また、Type-Aでも、長時間自律帆走以外の実証実験は成功しており、1m級プロトタイプと同等の機動性を実現している。
Type-Aでは、業務利用を想定した実証実験にも取り掛かっている。ここで想定しているのが漁業における魚群の事前探索だ。漁業では、漁をする漁船団の出港に先立ち「哨戒任務」の漁船が出港して、魚群を探索し、発見した魚群の位置を知らせて漁船団を向かわせている。この哨戒任務を自律帆走船に担わせて経費と労力を軽減するのが現在実現を目指している業務利用の姿だ。
哨戒任務に使う船は多ければ多いほど魚群の発見確率が高まるが、漁船を使うとそれだけ人件費と燃料代がかさむ。無人の自律帆走ヨットなら、そのどちらも削減できる。加えて、哨戒任務の自律帆走ヨットの魚群探知機データをネットワークで陸上にいる漁師が直接モニターできれば、魚群発見と同時に漁船団を出港させることも可能だ。
現在この業務利用に向けた実証実験を、相模湾に面した二宮漁場の協力を得て実施している。実際の業務利用に向けては、耐久性と運用性の向上を目指すという。運用性の向上では、ドローンの扱いに慣れていない人でも使えることが必要と野間氏は説明する。「DJIのように組み立てたらすぐに扱えるような簡便さが必要。スマートフォンアプリを開発中で、スマートフォンを見れば魚群が今どこにいるのかが分かるようにしたい」(野間氏)。
また、耐久性の向上では、2020年9月29日に大型3DプリンタメーカーのEXTRABOLDとの協業を発表した。大型3Dプリンタを船体成形に利用することで、中央の船体成形が従来の40時間から7時間に短縮できる他、現在の垂直方向の積層から水平方向の積層となること、加えて、現在の分割構造から一体構造となることで、強度や耐水性、耐久性の向上や軽量化の実現を目指すとしている。
エバーブルーテクノロジーズが発表している将来の構想では、ユーザーがスマートフォンで呼び出して利用できる海上タクシーや採算が取れず廃止となった離島航路などの業務利用を目指している。この実現には、法規制への対応など解決すべき課題が多く、まだまだ時間がかかるとのことだが、実現が比較的早そうな業務用途としては法的規制が少ないSUPやディンギーヨット(1〜2人乗りのエンジンを持たない小型のヨット)の延長としての自律帆走ヨットを考えているという。
ここの利用形態としては、「ビーチで借りられる自律帆走が可能なレンタルヨットを想定している。ヨットで帆走することができない人でもセーリングを体験することが可能だ」と野間氏は語っている。ヨット人口の減少を受けて、ヨットの体験機会を増やす方法を模索しているヨット業界において、この自律帆走“レンタル”ヨットは大きく貢献できるはずだ。
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