小さなヨットで取り組む自律“帆走”、漁業や海上タクシーへの貢献目指す:船も「CASE」(2/3 ページ)
自律“帆走”技術の開発に挑むスタートアップ企業がある。野間恒毅氏がCEOを務めるエバーブルーテクノロジーズだ。現在、ラジコンヨットをベースにした全長1mのプロトタイプと、船型からオリジナルで開発した2m級のトリマラン「Type-A」を用いて、自律帆走の実証実験を重ねている。
独自開発のType-A、船体は3Dプリンタで
Type-Aは、1m級プロトタイプと同じトリマランだが、全て独自に開発している。船型はプロジェクトに参加しているヨットデザイナーが設計し、そのデザインデータを3Dプリンタで出力した。通常、小型船舶の船体はFRP(繊維強化プラスチック)で成形するが、野間氏によると、成形に型が必要なFRPでは費用と制作時間がかかりすぎるが、3Dプリンタによる船体制作であればコストも時間も削減できるという。
1m級プロトタイプはスループ・リグだったが、Type-Aでは船首近くにマストを備えてメインセールだけを揚げる方式に変更した(これをキャット・リグと呼ぶ)。この理由は「扱いが容易で制御も簡単だから」(野間氏)。セールはキャンプで使うタープを自分たちで加工しているが、現在、セールメーカーの大手であるノースセールに特注で制作を依頼しており、近い将来、効率の高いセールを使った帆走も可能になる見込みだ。
自律帆走に関連したハードウェアとソフトウェアは1m級プロトタイプとほぼ同じだ。ただし、Type-Aでは風向計をマスト中段とマストトップの2カ所に増やしている。加えて風力計も用意してマストトップに設置した。
海での衝突回避
Type-Aでは衝突防止用の距離センサーを超音波センサーから赤外線センサーに変更した。これは、超音波センサーは防水を施すことが難しいのに対して、赤外線センサーは密閉した防水ハウジングに組み込んでも赤外線射出面を透明なアクリル板にすれば使用可能であるからだ。
また、Type-Aは衝突防止から一歩進んで衝突回避もできるようにしている。ただし、距離センサーは船首側に向けており、かつ、指向性が高いため、斜め前にある物体の距離を検出することはできない。加えていえば、横方向、後ろ方向から接近する物体についても検出しない。Type-Aにおける衝突回避の対象は、実証航海において並走する予定の伴走船だ。自律帆走または自律航行のシステムに何らかの不具合が生じて伴走船に向かってきたときの衝突を現状では回避対象として想定している。ただし、この衝突回避が確実にできるようになれば、「実運用における航海でプレジャーボートや漁船との衝突も回避できるようになる」と野間氏は説明する。
本船向けの自律運航船では他船の動静把握にAIS(Automatic Identification System:船舶自動識別装置)を利用するケースが多い。Type-Aは現時点でまだAISを活用していないが、エバーブルーテクノロジーズのロードマップとしては将来的にAISも他船動静把握で活用する予定だ。ただし、その場合でも、AISトランスポンダ、または、AISレシーバーはType-Aに搭載せず、AISデータは陸上に設置した管制室で取得し、そこでAISデータも反映した航行プラン(飛翔タイプドローンでいうところのフライトプラン)を3Gもしくは4Gデータ通信でType-Aに送って回避行動をとらせる方式を検討している。
Type-AにAIS関連システムを搭載しない理由について野間氏は「船に搭載したAISシステムを駆動する電力の確保が難しいため」と説明している。
衝突回避の制御プログラムは独自開発だ。現時点は前方に衝突の可能性のある物体を検出した場合に速度を落として衝突を回避する機能に限定している。ただし、Type-Aは距離センサーを複数台搭載した全周監視も可能で、検知した物体の方位に合わせて海上衝突予防法に応じた避航にも技術的には対応できるとしている。さらに、Type-Aには遠隔操船のためにカメラも搭載できるので、将来的には周囲監視に画像処理技術を活用する予定もある。
海上衝突予防法への対応については、現時点の実証航行では、伴走艇で常に目視確認できる状態で進めていること、無人船であること、そして、船体全長が2mの無動力船であることからSUP(スタンドアップパドルボート) やウインドサーフィン、ラジコンヨットと同じカテゴリーに分類され「海上衝突予防法の対象外となる」と野間氏は説明する。併せて、将来、社会的要望や事業パートナーからの要望が増えてきた場合は、「エバーブルーテクノロジーズとして適切な衝突回避技術を導入していく」とも述べている。
筆者注:海上衝突予防法における自律運航技術を導入した無人船舶や小型無動力船の扱いについては、現在海事関係者で解釈が分かれており議論が進んでいる。この問題は自律運航船技術において重要な論点であるので、別記事にて解説する予定だ
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