ニッチトップをより合わせて太く、OKI電線のケーブル成長戦略:製造マネジメント インタビュー
OKI電線は、産業用ロボットや製造装置向けで強みを持つ電線・ケーブル事業、用途が拡大しているフレキシブル基板事業、ワイヤ放電加工機向けの電極線事業などを展開し、それぞれの事業で存在感を放っている。2018年からOKIの完全子会社として生まれ変わり、OKI EMS事業グループの中核企業となった同社の現状と成長戦略について、OKI電線 代表取締役社長の小林一成氏に話を聞いた
日本の製造業は規模の小さい隙間市場でシェア1位となり存在感を築く「ニッチトップ企業」が多いとされている。こうした「ニッチトップ企業」の複合体として存在するのが、電線・ケーブル業界である。電線・ケーブルはあらゆる製品に使われる身近な存在である一方で、用途に合わせてさまざまな製品が展開され、分野や用途ごとに強い企業が活躍する業界である。こうした中で「強い要素を組み合わせていく」と語るのが、OKI電線 代表取締役社長の小林一成氏である。
OKI電線は、産業用ロボットや製造装置向けで強みを持つ電線・ケーブル事業、用途が拡大しているフレキシブル基板事業、ワイヤ放電加工機向けの電極線事業などを展開し、それぞれの事業で存在感を放っている。2018年からOKIの完全子会社として生まれ変わり、OKI EMS事業グループの中核企業となった同社の現状と成長戦略について、小林氏に話を聞いた。
顧客の製品開発部門との接点を強化
MONOist 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの影響も各業界に色濃く出ていますが、現在の状況についてどう見ていますか。
小林氏 OKI電線では、産業用ロボットや製造装置の可動部分で使用する高付加価値ケーブルを主力としており、FAおよびロボット業界向けが中心となっている。これら市場への設備投資がCOVID-19だけでなく、米中貿易摩擦の影響も含めて、減少傾向にあり、市場環境としては厳しい状況が2020年度(2021年3月期)はしばらく続くと見ている。
その中でもできることをコツコツやっていくしかない。現在力を入れている取り組みの1つが新規顧客の開拓だ。そのために営業部門に新たにセールスエンジニアの専任者を配置し、技術的なディスカッションを進めながら、新たな顧客、新たな用途でのケーブルの使用などについて具体的な話が早く進められる体制を用意した。
電線やケーブルは、同じような製品形状ではあるものの、使う場所や用途などによって求められる製品性能が大きく異なる。そのため、顧客の製品企画や設計開発部門との接点を築き、ニーズを掘り下げていくことで、従来は見えていなかった新たな特性などをつかむことができ、新たな製品展開につなげることができる。従来の営業では、調達部門との商談が中心となっていたが、技術的な話ができるセールスエンジニアが入ることで顧客の製品開発部門と中長期の話ができるようになることが大きなポイントだ。
電線・ケーブル業界はプロダクトアウト的な発想が中心だったが、OKI電線は2018年にOKIの完全子会社となり、OKI EMS事業グループに入ったことで、発想が変わってきた。EMS(電子機器受託生産サービス)は顧客の生産ラインを請負うというサービスであるため、顧客の要望をつかみそれに応えていかなければビジネスにならない。OKI電線としてもOKI EMS事業グループの一員として、顧客中心の発想に切り替えていく必要があり、セールスエンジニアの設置はそうした取り組みの一環となるものだ。
残念ながら、COVID-19の影響で、セールスエンジニアが直接顧客のもとを訪問するということは難しくなっているが、逆にWeb会議などで遠隔地でもすぐに面談できるという利点もあり、若手の技術者を同行させることで、組織的な成長にもつなげられる。幸いにもこれらの取り組みの効果も出ており、1件当たりのビジネスサイズは小さいものの、新規案件の獲得件数は前年度並みで推移することができている。また、Amazon.comでフレキシブル基板の販売を開始するなど、さまざまな新たな販売施策を試している。
MONOist その他に力を入れている活動はありますか。
小林氏 セールスエンジニアの配置に加えて力を入れているのが、共創型のビジネス展開である。以前からケーブルを提供する上で熱対策などの条件に合わせた被覆素材メーカーとの協力などプロジェクトベースで協業するケースはあったが、さらに踏み込んで中長期の製品開発のロードマップも含めたパートナーシップなど、協業の枠組みを広げていく。
今までも、さまざまな案件で、同じようなメーカー同士で組んで製品を組み合わせて納品するケースが多かったが、プロジェクトベースではさまざまな制約があり、できないことも多かった。どうせ同じようなメーカーで組む機会が多いのであれば、中長期でパートナーシップを組んで、より高い価値を実現する方が顧客にとってもメリットは高いと考えた。新素材の開発も含めて、より深い領域での協業を進めていく方針だ。
強みをより合わせることでさらに強く
MONOist 5Gなど無線通信技術が発展する中、有線のケーブルの利用領域が浸食されている印象がありますが、こうした環境についてはどう考えていますか。
小林氏 無線通信技術を活用する領域が増えているのは事実だが、有線でなければできない領域があるのも現実だ。そういう有線の価値がある領域で価値を発揮することが電線・ケーブルメーカーの生きる道だと考えている。そういう意味ではOKI電線が得意とする高速通信・高信頼性・高耐久性を強く要求される産業用領域については、有線の利点がまだある。また、同時にこうした領域ではケーブルによる特性を生かしつつも省スペース化も要求されるため、フレキシブル基板へのニーズも高い。ケーブルとフレキシブル基板をどちらも扱うメーカーは少なく、これらを組み合わせて実現できる価値も差別化につなげられる。当たり前だが、他では実現できない付加価値を発揮していくことで差別化を進めていくことが重要だ。
実際に、中国の医療機器メーカーでは、従来は中国内のメーカーのケーブルを使っていたが、製品性能を高めるためにOKI電線のケーブルに切り替えたケースもある。付加価値を認めてもらえれば価格が高くても評価してもらえる。このような「認めてもらえる価値」をいかに作り出していけるのかが何よりも重要だと考えている。
MONOist 付加価値を組み合わせる意味で、自社内での組み合わせの話もありましたが、社外との組み合わせも検討していますか。
小林氏 先述したように共創型ビジネスを拡大していくということが1つある。もう1つは、M&A(合併と買収)だ。2015年に、ハイエンドのオーディオケーブルを扱うモガミ電線を買収したが、さらなるM&Aも検討する。
電線・ケーブルは、基本的な構造はどこも同じで、製造設備なども非常に長い期間使うことができる。一方で、業界や用途、場所などにより仕様などは細かく異なっており、これらのニッチな市場に入り込んで特徴を生かした企業がそれぞれの領域で生き残っているというのが現状だ。日本だけでもまだ500〜600社の電線・ケーブルメーカーが存在する。そこで、これらの特徴を持つ企業を、ケーブルのようにより合わせることで、より強い企業体が作れるのではないかと考えている。OKI電線にないものを加えるという発想と、強みをさらに強くという発想の両面でM&Aも積極的に検討していく。
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