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日本郵船の避航操船AIが学ぶ、「ベテラン船長の技」とは船も「CASE」(3/3 ページ)

日本郵船は日本の大手“海運”会社の1つだ。そのグループ企業には船舶関連技術の研究開発に取り組む日本海洋技術とMTIがある。彼ら日本郵船グループが手掛ける研究開発案件は、自動運航関連からリモートメンテナンス、環境負荷低減、高効率舶用ハードウェア、船舶IoT、航海情報統合管理システム、操船支援システム、船陸情報共有プラットフォームなど多岐にわたる。

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自己進化するAIでもベテラン船長の技を活用する

 ここまで紹介してきた避航操船プログラムでは、操船シミュレーターにおける船長や航海士の操船から得たノウハウに関するデータを基に、最適な避航操船ができる思考ルーティンを求めてプログラムに組み込んでいる。そのため、仮に思考ルーティンを求めた時点にはなかった状況が発生した場合、それに対する最適な避航操船を立案することができない。

 思考ルーティンによる避航プログラムは開発者から見ればホワイトボックスで、何が起こるかが予測できるというメリットがある。しかし、今後、避航プログラムを適用する海域を拡大していくためには、その海域特有の事情を反映した思考ルーティンを最初から開発しなければならない。この開発リソースは人的にも時間的にも膨大になる。

 そこで着手したのがAIを活用した避航操船研究だ。2018年からは神戸大学(2020年からは大阪府大も参加)との共同研究として国交省の「平成30年度交通運輸技術開発推進制度」に採択されている。

 AIを導入した避航プログラムでは、想定していない状況が発生すると、その状況における最適な避航操船をそれまでの学習を基に新たに立案できる。未知の状況が発生するたびにそれに応じた最適な避航操船を立案し続ける。また、自分で進化成長できるAI導入避航プログラムなら、海域特有の事情を自分で学習した上で適合した避航操船を立案できるレベルまで進化することが可能だ。

 日本郵船グループでは、このように、自分たちのノウハウを移植できる思考ルーティンタイプと、自己進化が可能なAIタイプのそれぞれのメリットを組み合わせていきたいと考えている。この深層強化学習においては、他船との衝突を避けるなど「上手な操船」に報酬(得点)を与えるゲーム手法で操船技術を向上させていく。

 AIは他船に不安や恐怖を与えない距離を保つ操船など船乗り特有の加減の学習が苦手だという。その補完にもベテラン船長のノウハウを蓄積した操船傾向データが活用できる。「加えて海上衝突予防法など操船で特有のルール(=法律)を事前に入力しておくと、プロの船乗りが受け入れやすい操船を効率よく学習できます」(安藤氏)。

 このように、避航操船用AIは、現在ベテラン船長のノウハウを学びながら成長している途上にある。成長した避航操船用AIを操船シミュレーターと連結して、その操船能力の定量的評価やベテラン船長による評価を実施した後、神戸大学の実習船に実装した実海域での実証実験を2020年中に実施する予定だ。


現在、日本海洋科学の操船シミュレーターと避航操船AIを接続して、学習内容(避航操船が妥当なものか否か)の評価を実施している(写真は2019年9月実施の避航操船プログラム「最適化航行プログラム」の実証実験時のもの)(クリックして拡大)

(次回へ続く)

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