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アジャイル型製品開発の成功要因と落とし穴顧客起点でデザインするサービスイノベーション(3)(3/3 ページ)

製造業がサービス化を実現するためのポイントとしてサービスイノベーションの手法や事例について紹介する本連載だが、第3回となる今回はPoC(概念実証)など、ソリューション開発におけるアジャイル型の取り組みや、将来の実務適用を加味したアーキテクチャデザインについて、その有効性と方法論について紹介する。

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将来の実務適用を可能とするアーキテクチャ

 ここまでアジャイル型アプローチについて事例も交えて説明してきた。ここからは、アーキテクチャについて説明したい。アーキテクチャとは、もとは建築用語で、建築物や構造、建築術などを示す言葉だが、ここでは「ハードウェア、OS(オペレーションシステム、WindowsやLinuxなど)、アプリケーションソフトなどで構成されるコンピュータの基本設計概念」と定義する。

 アジャイル型アプローチは「顧客への体験を早く提供しフィードバックをもらう」ということがポイントで、顧客の声をいかにモノづくりに反映させるかが重要だと紹介してきた。しかし、最終的な製品を市場に投入することを考えると、このアプローチだけで考えるのは難しい。そこで重要になるのが、アーキテクチャのデザインである。

 失敗談としてよくあるのが、アジャイル型の取り組みの中で、利用するソフトウェア製品やサービスを全て確定させ、それを前提としたシステム開発を行ってしまうというものだ。結局、市場導入のタイミングでそのソフトウェア製品やサービスだと要件を満たせない場合があり、開発したシステムを全て捨て、一から開発をやり直さざるを得なくなるというケースだ。

 こういった失敗を防ぐためには、以下のような順番で取り組むべきだと考える。はじめに取り組むべき課題(外部から求められている要求)を構成要素に分解する。この時、外部との接点に着目し責任境界を明確にすることが重要だ。責任境界を明確にすれば、おのずとそれぞれの役割を明確にできる。同様の作業を内部にも繰り返し行い、構造を細分化していく(構成要素へ分解していく)。

 次に、構成要素ごとの「関係性」と「振る舞い」を定義する。各構成要素の役割と関係性を決め、機能的な振る舞い、また満たすべき要件(例えば、動作の速さや問題発生時の挙動など)を決める。システム開発の定義に変換すると以下となる。

  • 各構成要素の役割:データの配置、機能の配置
  • 各構成要素の関係性:インタフェース
  • 機能的な振る舞い:機能要件
  • 満たすべき要件:非機能要件

 ポイントは、具体的な製品やサービスの固有名称は出さないということだ。あくまで論理的な構造や振る舞いを抽象化して定義することが重要となる。このアプローチを進めることで、整合性を維持し、強い骨組みのアーキテクチャが実現できる。最後に、構成要素ごとに最適なテクノロジーの選択や、最適な推進チームを選択することで、変化に柔軟に対応できるようになる。アジャイル型で組み立てたモデルをさまざまな市場環境でも具体化できる大本の枠組みができる。

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図2 アーキテクチャデザインのアプローチイメージ(クリックで拡大)出典:フューチャー

オープンでスタンダードなテクノロジーの活用

 これまでの製造業は、安心・安全と考えられているテクノロジーを採用する傾向が強かった。これは、オープンで新しいテクノロジーを自社でコントロールできない(責任を持てない)ということが要因だと考えられる。

 一方で世界を見渡すと、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon.com)をはじめとする巨大なITカンパニーが、ここ十年のテクノロジーの進化を牽引(けんいん)してきた。さらにIT業界における技術開発では、個社ではなくオープンなコミュニティー(例えば、GitHubなど)で行うスタイルが定着しており、これが最新技術の進歩を速めている大きな要因となっている。不確実性が高まる時代の中、より俊敏な技術開発が求められる中では、さらにオープンコミュニティーの開発力が重要になってきているといえる。

 品質を特徴とする日本の製造業にとって、責任が不明確となるオープンコミュニティーによる技術開発は相性がよくない面はあるが、テクノロジー面だけではなく、企業の理解や業界の規制の変化、環境要因なども踏まえて考えていくことが重要だ。アジャイル型アプローチでも紹介したが、経営メンバーなど関係者への継続的な説明や文化の醸成などもセットで考え、変化に対応できる体制を作り出していく必要がある。自社だけでなく、外部の協力者を取り入れるなど、会社の枠を超えた取り組みなども含めて、考えていく必要がある。

≫「顧客起点でデザインするサービスイノベーション」の目次

著者紹介:

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柴田健一(しばた けんいち) 
フューチャー 執行役員 テクノロジー・イノベーショングループ

 2000年東京理科大学理工学部情報科学科卒業。2006年フューチャーアーキテクト(現フューチャー)入社。クラウドを活用したミッションクリティカルシステムの全体アーキテクチャデザイン(機能・データ配置、処理方式、サービス選定など設計)および構築、エンタープライズ領域におけるプラットフォームのデザインや設計のコンサルティング業務を推進。全体アーキテクチャ方針を策定し、ステークホルダーを具体的に巻き込んだ業務推進を強みに、テクノロジーを軸とした複数のプロジェクトにて統括責任者を務める。


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井上拓(いのうえ たく) 
フューチャー Strategic AI Group シニアアーキテクト
イノベーション・ラボラトリ 取締役

 2007年京都大学工学部情報学科卒業。フューチャーアーキテクト(現フューチャー)入社。ITコンサルタントとして、基幹システムを支えるコア技術およびシステムアーキテクチャのデザイン、クライアントのIT戦略推進に携わる。テクノロジーに立脚した業務改革推進、アプリケーションの設計/構築/移行のプロジェクトをリード。2019年12月よりフューチャーグループ傘下となったイノベーション・ラボラトリの取締役に就任。現在に至る


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