製造業を取り巻く「不確実性」とサービス化の関係性:顧客起点でデザインするサービスイノベーション(1)(1/2 ページ)
不確実性が高まる中、製造業の中でも「モノからコトへ」のサービス化に大きな注目が集まっている。しかし、実際には製造業のサービス化への取り組みは限定的である。製造業がサービスイノベーションに向かうためには何が必要なのだろうか。本連載では、これらの手法や勘所についてお伝えする。第1回の今回は、製造業を取り巻く環境の変化とサービス化の関係性について紹介する。
社会情勢の不確実性が高くなり、製品のライフサイクルが短くなる中で、企業の持続的な成長を実現する手段として「サービス化」の重要度がますます大きくなってきている。しかし、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon.com、Microsoft)を筆頭とするIT企業のXaaS(X as a Service、サービス化)提供や、サブスクリプションサービスの隆盛と比較して、製造業(特にB2B製造業)のサービス化の進展は限られたものにとどまっている。
製造業におけるサービス化が進まない要因としては「製品・技術起点の発想」「自社・系列内にとどまる囲い込み思想」「ビジネスモデル・収益モデルの違いに対する認識不足」などが挙げられる。
本連載では、これらの障壁を打破するための示唆を製造業の読者に与えることを目的とし、顧客起点でデザインするサービスイノベーションの手法、事例、勘所について全4回の連載記事でお伝えする。
不確実性の増大とサービス化の必要性
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックは人々の生活様式を変え、消費動向を変えようとしている。経済活動への影響の全体像はいまだ見えておらず、製造業の市場環境、事業環境についても不透明なままとなっている。今回のパンデミックのみならず、リーマンショックや東日本大震災、ブレグジットなど 自然災害や地政学的リスクによる事業環境の不確実性は増大するばかりとなっており、グローバル化を進めてきた製造業はその影響を最も受けやすい状態となっている。これらの変化による受注の大幅な増減とそれに伴う雇用調整への対応が最大の経営課題となっており、結果として新規事業やイノベーションへの投資が十分に行えないため、異業種や新興企業によるDisrupt(破壊的参入)の脅威も受け続ける状況となっている。
これらの状況を打破する1つの有効な手段として注目されるのが、製造業の「サービス化」である。サービス化を進めることで、より顧客との関係性を強化し、提供する価値をバリューチェーンの下流まで伸ばすことで景気変動の波を吸収し、顧客離反を防ぐことができるようになるのである。
例えばサービス化の有名な事例として、GEやロールスロイスなどが手掛ける航空機エンジン事業が成功例として挙げられる。航空機エンジン事業は、以前からメンテナンス事業による役務・パーツ交換を大きな収益源としてきたが、契約形態を「Time and Material(整備に要した時間と部品代を請求)」から「LTSA(Long Term Service Agreement、長期保守契約)」へと変化させ、エンジンの稼働時間や燃費に関する結果責任までも請け負うことで、顧客(エアライン)への提供価値を高め、自社の経営の安定化と収益増を実現することができた。さらに近年では、IoT(モノのインターネット)やビッグデータ解析などのデジタル技術の活用により、提供サービスの範囲をさらに拡大させようとしている。
モノ売りからサービス化へと事業範囲を拡大し、そこにデジタル技術を加えることで「サービスイノベーション」を創出することができる。ここからは、サービスイノベーションにより、持続性のある競争優位を築き上げ、不確実性に負けない事業を構築する具体的な方法や勘所について説明していく。
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