水産養殖のスタートアップは魚の自動給餌機開発にAWSをどう活用したのか:製造業IoT(2/2 ページ)
AWSが2020年9月8日〜30日にかけて開催中のオンラインのユーザーイベント「AWS Summit Online」で、水産養殖向けテクノロジーを開発するスタートアップのウミトロンが事例紹介講演を行った。AWSの各種サービスを活用して同社開発の自動給餌機「UMITRON CELL」に機械学習システムやIoT機能を搭載した事例を紹介する。
Amazon SageMakerで機械学習技術の学習環境を統一化
岡本氏によると機械学習システムの開発時には、大きく分けて2つの課題に直面したという。「1つは機械学習アプリケーションの開発速度だ。継続的かつ安定的なアプリケーション開発を行うための環境整備を行うことが難しかった。もう1つは、機械学習技術の学習環境がエンジニアによってばらばらだったことだ。各エンジニアの学習環境が統一化されていないため、機械学習用の訓練データの管理方法が統一されないなど不都合な事態が生じていた」(岡本氏)。
こうした課題を解決するためにウミトロンが活用したのが、機械学習のマネージドサービス「Amazon SageMaker」である。機械学習モデルを統一的に構築できる仕様のため、エンジニアの学習内容次第でデータの管理方法がバラバラになるなどの問題が生じない。また、開発過程で生まれた疑問点は、AWSが公開しているドキュメントなどを参照すれば解決できるため、全体的に学習コストを抑制しやすいという利点もあるという。
岡本氏は「今後は機械学習モデル開発の、さらなる高速化を目指している。現在は訓練データを人手で作成しているが、これをデータクエリ『Amazon Athena』などを用いて自動化させたい。また、データラベル付けサービス『Amazon SageMaker Ground Truth』を用いれば、訓練データへのアノテーション(ラベル付け)作業も自動化できるはずだ」と期待を寄せた。
IoTデバイスで収集したログデータをストレージサービスに保管
岡本氏はIoTデバイスの開発当時を振り返り「IoTデバイスで実現したいことは幾つかあったが、その内の1つがIoTデバイスとサーバ間のリアルタイムの双方向通信だ。デバイスからのデータ収集だけでなく、サーバからデバイスへのリアルタイム通信も目標としていた。もう1つは、海上であっても安定的に稼働するネットワーク環境の構築である。地上にIoT機器を設置する場合と比べると、海上での運用はネットワーク環境が安定しづらい状況にある」と語った。
岡本氏によると、これらの要望を実現し得るIoT基盤サービスこそが「AWS IoT」であったという。AWS IoTは、IoTデバイス、Webサーバ、スマートフォンアプリの間でそれぞれ双方向通信が可能だ。フルマネージドで提供されるため運用の手間はかからない。また、IoTデバイスから取得したデータのうち、テキストデータ化したログデータはAWSのストレージサービス「Amazon DynamoDB」に、動画や画像などは「Amazon S3」に直接アップロードする。ログデータはIoTサービスが生み出す通信リクエストの大部分を占めているが、Webサーバを経由せずに保存する仕組みにすることで、UMITRON CELLの他機能に影響を与えることなくログ保存が可能な仕組みを実現した。この他、給餌作業やモニタリングなどのリアルタイム通信には「AWS IoT Device Shadow」を用いる。
なお、UMITRON CELLへのアップデートソフトウェアのデプロイには「AWS IoT jobs」などを用いる。岡本氏は「AWS IoT jobsでデプロイのジョブを作成すると、デプロイ先のデバイスがオフライン状態だった場合は実行せず、オンラインになった段階でデプロイを開始する。UMITRON CELLのように、海上で通信環境が安定しない環境下で運用するにはこうした仕組みが好都合だ」と語った。
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