“海洋国家”日本の洋上風力発電技術は立ち上がるか?:小寺信良のEnergy Future(20)(1/3 ページ)
広大な海洋領土を持つ日本。洋上風力発電の技術開発はどこまで進んでいるのか。そして、この分野で世界のトップに立てる可能性はあるのだろうか。
意外に知られていない風力発電の世界
海岸線を走る電車に乗っていると、たまに風力発電の風車を見かけることがある。だが大抵は止まっていて、元気よく回っている姿をあまり見たような記憶がない。クリーンなエネルギーには違いないが、実は近隣住民にとっては低周波の騒音がうるさいという話も聴く。
今再生可能エネルギーが大きな注目を集めているが、風力発電も当然その中に入る。だがその実態を知る人は、どうも日本には少ないのではないだろうか。今回は独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の新エネルギー部に、風力発電について取材させていただいた。風力発電のいまと、日本の未来像を考えてみたい。
世界各国の自然エネルギー開発における風力発電の位置付け
日本に住んでいると気付きにくいことだが、風力発電は、実は世界的に見ればかなりメジャーな発電方式である。風力発電の世界全体の年間発電量は、2010年の段階で200GW(200×100万KW)にも上る。
長年ドイツが発電量でトップを走っていたが、2008年にアメリカが台頭、さらに2009年ごろから中国が伸び始め、2010年にはアメリカをも抜き、首位に立った。世界レベルで見れば、ものすごい勢いで成長を続けている分野である。
一方日本ではどれぐらいかといえば、設備数としては1870基あるものの、設備容量としては2.5GW程度しかない。世界規模からすれば1%強で、グラフ化すれば「その他の国」レベルである。
風力発電が注目される理由の1つは、発電コストの安さと設置コストが一定の範囲内に収まることにある。日本で大きな注目を集めている太陽光発電は、現時点では他の再生可能エネルギーによる発電方式に比べると高コストで、しかも方式や設置方法などによってコストが大幅に変動する。
一方風力発電は、どこでどう作ってもあまりコストが変わらず、発電量が大きいために、kWh単位で割れば結果的に低コストになるという特徴がある。
「スーパーグリッド」の整備が進む欧州、中国の「地の利」
風力発電に限らず、再生利用可能エネルギーによる発電特有の問題として、天候によって発電量にムラがあるという点が挙げられる。
日本のようにNAS電池などの巨大蓄電池をバッファにするという方式もあるが、欧州の場合は「スーパーグリッド」と呼ばれる国をまたいだ巨大系統連携網を作って吸収している。これは、EU加盟国間で、風力や水力、太陽光などで発電した電力を互いに融通し合って、発電量の凸凹を無くすというものだ。現在はまだ一部が稼働しているだけだが、最終的にはEU全体を網羅する大電力網となる。
ここでキーになるのは、ノルウェーのフィヨルドに数多くある巨大揚水型水力発電所だ。スーパーグリッド内で余剰電力が出たときには、その電力を使って揚水する。電力が足りなくなれば、引き上げた水を使って発電し、不足分を補う。つまりここが巨大バッファの役割を果たすわけである。
他方、中国が風力発電で台頭してき背景には、急激な経済発展により電力需要が高まっていることが挙げられる。加えて、地理的な要因が大きい。まず国土が広く、風力発電に有利な場所がたくさんあるという地の利がある。さらにドイツから技術供与を受けて、中国内に大手風車メーカーが誕生している点も影響しているだろう。
風車メーカーの勢力図
風車メーカーという視点で見れば、世界最大シェアを持つのはデンマークのVESTASだ。そもそもは1898年創業の農機具メーカーであったが、1970年代後半から風力発電機器に着手し、現在では風力発電専業メーカーとなった。
世界第2位のSinovelは中国メーカーで、2004年にドイツのFuhrlanderから技術供与を受け、業界に参入した。3位の米GE Energyは、同じ米国のEnron Windを2002年に買収して参入している。4位のGoldwindは、ドイツのREPowerから技術供与を受けて1998年に創業した中国メーカーである。
そしていま、世界の風力発電は、陸上を離れて洋上へと主力を移しつつある。
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