ブリヂストンは“強いリアル”とDXで技術イノベーション、東京・小平を再開発:研究開発の最前線(2/2 ページ)
ブリヂストンは、2020年7月に発表した中長期事業戦略構想「Bridgestone 3.0」で重要な役割を果たす技術イノベーションの方向性について説明。ブリヂストン技術センターや東京工場が位置する東京都小平市の拠点を再開発し、新たなイノベーション拠点となる「Bridgestone Innovation Park」を開設する。
“強いリアル”は、ブリヂストンの技術イノベーションの最大の強み
Formula1やMotoGPへのタイヤ提供で限界性能を知り、トラックやバスなど商用車向けで長寿命化を図り、航空機や鉱山機械向けで高い耐久性能を目指すなど、ブリヂストンはあらゆる車両、道、使用条件からきた豊富な経験がある。また、「ULTIMATEYE(アルティメットアイ)」など独自の計測・解析技術や、素材技術、市場から高い評価を得ている商品群がある。これらの“強いリアル”は、ブリヂストンの技術イノベーションにおける最大の強みに他ならない。
坂野氏は、この“強いリアル”にデジタルを融合した事例を幾つか紹介した。まずは、“強いリアル”と構造CAEを融合した高度設計シミュレーション技術だ。あらゆる路面におけるタイヤの接地状態のシミュレーションにとどまらず、タイヤと車両システムを組み合わせた複合シミュレーションなども行える。2020年8月発売の鉱山機械向けタイヤ「マスターコア」や、摩耗性能を維持しながら軽量化によって転がり抵抗を大幅に削減した乗用車用タイヤ「ENLITEN」などが代表例となる。
分子レベルのCAEを可能にするマテリアルズインフォマティクスとの融合で実現する素材・配合シミュレーションでは、未知の素材開発を加速させていく。代表例は、ゴムと樹脂を分子レベルで結び付けた「世界初」(同社)をうたうポリマー「SUSYM(サシム)」だ。
先述したブリヂストンならではのアルゴリズムとの融合では、2019年9月に買収を完了したオランダのWebfleet Solutions(旧TomTom Telematics)に代表される市場走行ビッグデータを用いて、タイヤ製品の断トツ性能や性能カスタマイズが可能になるとともに、摩耗予測や耐久予測に代表されるタイヤ性能予測により断トツソリューションとしての提供を加速させる。
2020年6月に発表した、日本航空とのタイヤ摩耗予測技術を活用した航空機整備作業の効率化の取り組みも、“強いリアル”とブリヂストンならではのアルゴリズムを融合した成果だ。「航空機向けで培った技術とサービスは、トラック・バス、乗用車などにも展開できる」(坂野氏)。
Bridgestone Innovation Parkは、これらの“強いリアル”とデジタルの融合によるイノベーションを推進するための拠点となる。坂野氏は「エンジニアが小さく、早く、思考を高速回転させ、開発を加速して断トツ商品を創出する。社外パートナーとの共創も重視しており、2018年、2019年も先行的にオープンイノベーションに向け各年で約50社と連携を模索する活動を行った。Bridgestone Innovation Parkでは、これをさらに拡大させる」と述べる。なお、東京大学や日本精工、ローム、東洋電機製造と2019年10月に発表したワイヤレス給電インホイールモーターなどは、オープンイノベーションの成果になるという。
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