35兆円に成長する再生医療市場に向け、日立が「国内初」の統合管理基盤を構築:サプライチェーン改革
日立製作所は、医薬品卸のアルフレッサや製薬企業、医療機関との協創を通じて、細胞治療や遺伝子治療、再生医療に用いられる「再生医療等製品」に関する細胞の採取から生産、輸送、投与までのバリューチェーン全体の細胞・トレース情報を統合管理するプラットフォームを構築したと発表した。
日立製作所(以下、日立)は2020年8月31日、オンラインで会見を開き、医薬品卸のアルフレッサや製薬企業、医療機関との協創を通じて、細胞治療や遺伝子治療、再生医療に用いられる「再生医療等製品」に関する細胞の採取から生産、輸送、投与までのバリューチェーン全体の細胞・トレース情報を統合管理するプラットフォームを構築したと発表した。協創パートナーとの運用テストを経て、2021年からは日立のデジタルソリューション「Lumada」の1つとして実運用を始める計画。2025年までに、製薬企業やバイオベンチャーなどを中心に約20社の利用を目標としている。
iPS細胞やES細胞などに代表される再生医療等製品は、有効な治療法がなかった疾病に対して新しい治療の道を開くと期待され、各国で開発が進められている。日立は、再生医療関連産業の世界市場規模が今後年平均で28%成長し、2026年には3350億米ドル(約35兆4000億円)まで拡大すると見込んでいる。その一方で、再生医療等製品は、患者や細胞提供者から採取した細胞を培養して患者に投与するといった特徴から、サプライチェーンの全行程において細胞の個体管理や情報トレースが必要であり、安心・安全な流通のために、従来にない新たなサプライチェーン体制の構築が求められている。
今回日立が構築したプラットフォームは、厳格な品質管理と情報のトレーサビリティーが必要となる再生医療等製品に関して、検体の個体識別と細胞の採取、生産、輸送、投与の情報トレースを行うものであり、バリューチェーンに関わる全てのステークホルダー(医療機関、製薬・物流・製造企業など)が利用可能な「国内初」(日立)の共通サービス基盤になる。各社は自前の管理システムが不要となり、業務・企業間のシステムの違いから発生する煩雑な管理が軽減され、データを一元管理できることから、迅速かつ安心・安全に事業を進めることが可能になるとする。
開発したプラットフォームは、クラウドベースのSaaSとして提供される。患者や細胞などの個体識別では、患者情報を匿名化するデータベース技術などを活用して秘匿化しつつ、患者IDに対してCOI(Chain of Identify)番号との関連付けを行う。一方、細胞の採取から生産、輸送、投与など、さまざまなサプライチェーンにまたがる品質情報のトレース(COC:Chain of Custody)では、製造業の生産工程の最適化で実績のある「IoTコンパス」を情報基盤として採用している。
日立グループは、医薬品分野において、培養設備をはじめとした生産設備・機器や、生産・品質管理システム、ERP、電子カルテシステムなどの制御・ITシステムなどを提供してきた実績と知見を有しており、今後普及が見込まれる再生医療分野でも、細胞培養装置や安全キャビネット、細胞加工・調製設備などの幅広いラインアップを展開している。また医薬品向けのITソリューションとしては、創薬の投下資本対効果の最大化で役立つ「Hitachi Digital Solution for Pharma」や、多品種少量生産に対応する製造IoT(モノのインターネット)ソリューションなどの採用実績がある。再生医療等製品の統合管理では、これらの製品やITソリューションとの連携も重要になってくる。
さらに、患者の細胞や再生医療等製品の輸送・保管に関わる部分はアルフレッサ、治験薬や再生医療等製品の製法開発・製造に関わる部分は受託製造企業、患者の細胞の採取から再生医療等製品の投与に至る全体プロセスや情報のトレースは製薬企業やバイオベンチャーの知見を活用することで、プラットフォームの高い実用性を確保できるようにしていく。全工程を網羅したスケジューリングや受発注管理、サプライチェーン全体を見通した分析やシミュレーションにも対応するとしている。
なお、今回のプラットフォームのように、さまざまな業界のステークホルダー間で横串を通して情報を共有する場合、ブロックチェーンを活用することも多い。「ブロックチェーンはまだ技術的に過渡期にあるため、現時点での採用は見送った。ただし、将来的には導入していきたいと考えている」(日立)という。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 細胞の3次元培養法の自動化技術を開発
日立製作所は、同社のiPS細胞大量自動培養装置を用いて、細胞の3次元培養法の新たな自動化技術を開発した。また、細胞の自動製造プロセス構築支援サービスの提供も開始した。 - コミュニケーションロボットを活用した入院説明業務支援の効果を評価
日立製作所は、同社のコミュニケーションロボット「EMIEW3」を活用した入院説明業務支援による、医療従事者の負担軽減効果の評価研究を開始した。従来の医療従事者が説明する患者と、説明の一部をEMIEW3が代行する患者を比較検証する。 - 再生医療に活用できるiPS細胞大量自動培養装置を製品化
日立製作所は、iPS細胞大量自動培養装置「iACE2」を製品化した。完全閉鎖系の流路モジュールを用いて、再生医療に使用するiPS細胞を無菌環境で播種(はしゅ)、培養、観察でき、品質の高い細胞を安定的に供給する。 - ヒトiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞シートの自動培養に成功
日立製作所と理化学研究所は、ヒトiPS細胞由来の網膜色素上皮のシート状組織「RPE細胞シート」を自動培養することに成功した。再生医療用細胞の品質が均一化し、量産による細胞の安定供給が可能になるため、再生医療の普及に貢献する。 - 日立アプライアンスが再生医療市場に参入「ソリューション事業の第1弾」
日立アプライアンスは、東京・日本橋に開設した「再生医療技術支援施設」を報道陣に公開。大学や研究機関、製薬メーカーなど向けに、iPS細胞に代表される再生医療に用いられる細胞加工を行うためのクリーンルームを提案する他、それらの顧客や、再生医療に用いる機器メーカーとの協創の場として活用する方針だ。 - 「スマート治療室」がIoTを本格活用、ORiNベースの「OPeLiNK」で医療情報を統合
日本医療研究開発機構、東京女子医科大学、信州大学、デンソー、日立製作所が、IoTを活用して手術の精度と安全性を向上する「スマート治療室」について説明。信州大学病院に導入された「スタンダードモデル」は、デンソーの「OPeLiNK」を組み込むことで、医療機器のさまざまな情報を統合運用可能で本格的なIoT活用になる。