ヒトiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞シートの自動培養に成功:医療機器ニュース
日立製作所と理化学研究所は、ヒトiPS細胞由来の網膜色素上皮のシート状組織「RPE細胞シート」を自動培養することに成功した。再生医療用細胞の品質が均一化し、量産による細胞の安定供給が可能になるため、再生医療の普及に貢献する。
日立製作所と理化学研究所は2019年3月14日、ヒトiPS細胞由来の網膜色素上皮(Eretinal pigment epithelium:RPE)のシート状組織「RPE細胞シート」を自動培養することに成功したと発表した。
日立は2012年8月に、角膜上皮や口腔粘膜上皮などの細胞シートを自動で培養できる、完全閉鎖系小型自動培養装置を東京女子医科大学とともに開発している。一方、理研は、iPS細胞を用いてRPE細胞シートを作製し、患者の網膜下へ移植するという臨床研究の実績がある。
両者は、RPE細胞シートを手技で培養する際の手順に従って、完全閉鎖系での装置培養に適用できるよう、送液や送気条件などについて検討を重ねた。その結果、ヒトiPS細胞由来のRPE細胞シートを自動で培養することに成功した。
さらに、サンプラテックの協力のもと培養容器を改良し、RPE細胞シートの培養に適した専用の閉鎖系培養容器を作製。これにより、再現性を高めた。
自動培養で作製したRPE細胞シートを確認したところ、細胞間接着マーカー(ZO-1)や基底膜形成マーカー(Laminin)が発現しており、熟練技術者が手技で培養したものと同等の品質であることが分かった。
再生医療用の細胞を完全閉鎖系で自動培養できるようになったことで、技術者のスキルに依存していた細胞の品質が均一化し、量産による細胞の安定供給が可能になった。今回の成果は、再生医療の普及やiPS細胞を用いた移植治療の発展に貢献するものだ。
左:改良した閉鎖系培養容器(RPE細胞シート用)、右:自動培養したRPE細胞シート縦断面。赤い部分が細胞間接着マーカー(ZO-1)、緑色が基底膜形成マーカー(Laminin)、青い部分が細胞核染色(DAPI) 出典:日立製作所
*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- パーキンソン病治療の治験、iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞の移植で1症例目
京都大学医学部附属病院は、iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験を行った。第1症例目の細胞移植で、約240万個のドパミン神経前駆細胞を脳の左側被殻に移植した。 - ヒトiPS細胞から小児脳腫瘍モデルを作製し、その病態を解明
東京大学と京都大学は、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた脳腫瘍のモデル作製に成功した。このモデルを解析し、3歳未満の幼児に見られるAT/RTの原因となる特徴を明らかにした。 - 再生医療に活用できるiPS細胞大量自動培養装置を製品化
日立製作所は、iPS細胞大量自動培養装置「iACE2」を製品化した。完全閉鎖系の流路モジュールを用いて、再生医療に使用するiPS細胞を無菌環境で播種(はしゅ)、培養、観察でき、品質の高い細胞を安定的に供給する。 - 細胞1個を正確に飛ばす、インクジェット技術はエレから医療へ
ピエゾ方式インクジェット技術を、医療やバイオテクノロジーの分野に応用する試みが始まっている。水を吐出できない、ヘッドが洗浄できないといった理由で医療やバイオ分野では普及してこなかったが、マイクロジェットはこうした課題に応える製品を開発している。 - iPS細胞由来心筋細胞を用いた再生医療製品の共同事業を開始
富士フイルムと武田薬品工業は、iPS細胞由来心筋細胞を用いた再生医療製品の共同事業化に向けた取り組みを開始した。両社の持つ技術や経験を組み合わせ、有効性、安全性に優れた再生医療製品の普及を目指す。 - iPS、ES細胞の培地コストを最大10分の1に低減、従来の培地と機能は同等
京都大学は、多能性幹細胞を培養するための新しい安価な合成培地と、その培地を用いた培養方法を開発した。この合成培地には人工的に合成した化合物を用いており、成長因子を必要としない。