“不確実”だからこそ必要な「設計力」と「デジタル人材」の強化:ものづくり白書2020を読み解く(3)(5/5 ページ)
日本のモノづくりの現状を示す「2020年版ものづくり白書」が2020年5月に公開された。本連載では3回にわたって「2020年版ものづくり白書」の内容を掘り下げる。第3回では“不確実”な世界だからこそ製造業に求められる「設計力強化の必要」と「人材強化の必要」について解説する。
日本企業における数学人材活用の課題
2020年版ものづくり白書では、これまでの実績を鑑みたうえで、日本における数学の研究能力水準は他国に引けをとるものではないとしているが、製造業において数学の知識や能力を有する人材を活用する上での課題として、日本の若手数学者のうち、民間企業に進む者が比較的少ないことを指摘している。日本において、数学の博士後期課程を修了した者の進路状況については、修了後に高等教育機関に進むものが多く、民間企業などに進む者は2013年から2016年にかけて増加しているが、全体の12%程度にとどまっている(図16、17、18)。
一方で、アメリカのPhD(数理科学)修了者数はここ数年増加傾向にあり、なかでも産業界へ進む者が年々増え、2016年には全体の約30%となっている(図19)。今後は日本においても、若手数学者が学術界のみならず製造業においても活躍できる機会が拡大することが望ましく、数学知識を持つ人材の活躍機会の拡大がモノづくり産業でも求められている。
これに加えて、2020年版ものづくり白書ではデジタル化に必要な人材の確保と育成の方策について、労働政策の観点からは、デジタル技術革新に対応できる労働者の確保や育成を行い、付加価値の創出による個人の労働生産性をより高めることが重要だとしている。一方で教育の観点からは、モノづくりの基盤となる実践的・体験的な教育・学習活動を一層充実させるとともに、「数理・データサイエンス・AI」のリテラシー教育を進めるなど今後のデジタル社会において必要な力を全ての国民に対して育んでいくことを示した。
2020年版ものづくり白書では、世界で高まる「不確実性」に日本の製造業が対処するために、環境や状況の急変に対応する「企業変革力」を高めることが重要だと繰り返し強調している。そのためにはデジタル化が有効であり、特にデジタル技術を徹底的に活用することにより設計力を強化することが重要となる。現在、日本の製造業はデジタル技術を十分に活用しているとは言い難い状況だが、くしくも新型コロナウイルス感染症への対応に伴い、これまでの常識や方法などを見直すタイミングにも差し掛かっている。今後は「企業変革力」を意識しながら、デジタル化に向けた動きや、そのために必要な人材の確保や育成に力を入れていくことが望まれる。
筆者紹介
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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