デジタル変革で何ができるか、医療現場の革新を目指すオリンパスのビジョンと苦労:MONOist IoT Forum 福岡2019(後編)(1/3 ページ)
MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパン、TechFactoryの、アイティメディアにおける産業向け5メディアは福岡市内でセミナー「MONOist IoT Forum 福岡」を開催。後編では特別講演のオリンパス カスタマーソリューション開発 グローバル ヴァイスプレジデントである相澤光俊氏による「顧客価値向上を実現するオリンパスのICT-AIプラットフォーム」、経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室 課長補佐である住田光世氏による「2019年版ものづくり白書の概要」などについてお伝えする。
MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパン、TechFactoryの、アイティメディアにおける産業向け5メディアは2019年6月18日、福岡市内でセミナー「MONOist IoT Forum 福岡」を開催した。
本稿前編では、三菱電機 FAシステム事業本部 FAソリューションシステム部 主席技監 森田温氏の基調講演と、日本OPC協議会 マーケティング部会 部会長である岡実氏によるランチセッションをお伝えしたが、後編では特別講演のオリンパス カスタマーソリューション開発 グローバル ヴァイスプレジデントである相澤光俊氏による「顧客価値向上を実現するオリンパスのICT-AIプラットフォーム」、経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室 課長補佐である住田光世氏による「2019年版ものづくり白書の概要」と、その他のセッションの内容についてお伝えする。
医療機器の新たなプラットフォーム化を進めるオリンパス
オリンパスは、デジタルカメラなどで有名だが、主力事業は内視鏡で世界シェア7割を握るなど、医療機器事業である。ただ、これらの医療機器は「現在過渡期にある」とオリンパスの相澤氏は述べる。
「今までは個々の性能や機能の強化で勝負してきた。これらの機能や性能の進化についてはこれからも進めていくが、機能や性能を強化すればどうしても高コスト化してくる。一方で病院など医療現場での課題は、個々の機器の機能や性能の強化だけでは解決できない問題もある。逆に使いやすくするなど、機器の機能進化とは別の軸での価値も存在する。こうしたさまざまな角度での価値軸で考え、新たな価値を実現していくためにAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの技術を活用することを考えた」と相澤氏は語る。
国内の病院経営や医療現場の現状は厳しいものがある。「国内の病院の6割が赤字だとされている一方で、慢性的な医者不足に陥っており、医師の労働時間は非常に長くなっている。現実的に医療従事者の献身的な努力で辛うじて成立している状況で、労働環境の改善が必須となっている」と相澤氏は医療における労働環境の課題を指摘する。
一方で医療の在り方そのものも変化している。従来は1人の医師が進めるパターンが多かったが、それぞれの専門家が専門知識を持って1人の患者に向き合う、チーム型の医療が普及してきた。オリンパスがかかわる内視鏡の領域で見ても「検査準備、内視鏡挿入、診断、処置、レポート作成、機器の洗浄や消毒作業などワークフローが存在し、医師だけでなくナースや技師などのチームで行う。こうしたチームとしてのワークフローをどう効率化するのかという考え方が必要になる」(相澤氏)。
ただ、こうしたチームでのワークフロー全体を考えた場合、オリンパスの機器が占める比率はごく一部である。そこで、自社だけでなく他社も含めた機器を連携させ、ワークフロー全体の負荷軽減や効率化を実現するためのプラットフォームを構築することに取り組んだという。これが2019年3月に発表した「ICT-AI Platform」である(※)。
(※)関連記事:オリンパスの「ICT-AIプラットフォーム構想」、医療と産業の両分野で展開
相澤氏は「医療機器などを通じたフィジカル空間と、サイバー空間を緊密に連携させることで新たな価値を提供する。クラウドと組み合わせることで遠隔医療などにもつなげることができる。医療分野全体のプラットフォームにしていくつもりだ」と展望を語る。さらにこれらのプラットフォームを産業領域にも拡大する方針である。
IoTのビジネス化の難しさ
ただ、現実的にはこれらをビジネスとして形にするのは容易なことではない。基本的には「仮説構築」「仮説検証、洗練」「事業化、事業貢献」のステップで取り組むが「IoTやAIを使うとできることは飛躍的に増えるため、実際に事業化をしてもユーザーに刺さらないというような場合も多くなる。そこで、PoC(概念実証)を重視する」と相澤氏は語る。
また、最初の「仮説構築」についても「起点はユーザーの課題を見極めるということだ。社内でいくらブレインンストーミングをしてもいいサービスは生まれない。顧客のところに行くのが重要だ。最初に着手するのはワークフローの分析で、ペインポイントを理解するということを最優先に行っている。この時のポイントは“理想的なワークフロー”ではなく“事実ベースのワークフロー”で分析することだ。管理者などの勝手な思い込みで進めないということが、正しい課題を認識するためには必要だ」と相澤氏は強調する。
「仮説検証」についても「プロトタイプ開発を行っても、その原形で最後までいくというこはまずない。仮説構築に力を入れているので原形を通したくなるのが人情だが、そこを我慢することが重要だ。あくまでも顧客のニーズを引き出すためのプロトタイプという認識を持つべきだ」(相澤氏)とする。一方で、顧客評価を得るために重要になるものとして「デザイン」の価値を訴える。「仮説検証を進めるには顧客側の協力が不可欠となるが、プロトタイプのデザイン性によって、顧客側が具体的なイメージを持てるかどうかが変わってくる。見せ方が重要だ」と相澤氏は述べている。
現在も抱える課題としては、1つは人材、もう1つはビジネスモデルの問題を挙げる。「ハードとソフトの連携を考えた場合、ITやAIの人材が必要だが、なかなか最適な人材がいない。協力してもらうためには、それぞれの技術も必要だが、技術力や報酬だけを考えると来てもらえない。社会価値などビジョンを共有することが重要だ」(相澤氏)。
一方で現在も悩んでいるのがビジネスモデルだという。相澤氏は「事業化フェーズで費用対効果を証明しないといけないところでは、まだ突破できていないのが実際のところだ。新しい事業なので収支などを出すのがそもそも難しい。最初のステップとしてはハードウェアを強化する付加価値としてビジネスを作っていくことを考えている。こうしたIoTのビジネス化は企業や事業によってやり方は変わってくる。定まった答えはないので、大きく狙わずコツコツと進めてどこかでブレークさせるという形がある意味で答えだと考えている」とビジネス化への取り組みについて語っている。
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