「ものづくり白書」に見る、日本の製造業が持つべき4つの危機感:ものづくり白書2018を読み解く(前編)(1/4 ページ)
日本のものづくりの現状を示す「2018年版ものづくり白書」が公開された。本稿では、本文の第1部「ものづくり基盤技術の現状と課題」の内容を中心に、日本の製造業の現状や主要な課題、課題解決に向けた取り組みなどを2回に分けて紹介する。前編では、4つの危機感の詳細とともに日本の製造業が直面する2つの主要課題について取り上げる。
日本政府は2018年5月に「平成29年度 ものづくり基盤技術の振興施策」(以下、2018年版ものづくり白書)を公開した。「ものづくり白書」とは、「ものづくり基盤技術振興基本法(平成11年法律第2号)第8条」に基づき、政府がものづくり基盤技術の振興に関して講じた施策に関する報告書だ。経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が共同で作成している。
本文に先立つ「総論」では、日本のものづくり産業は大規模な環境変革の中であらゆる変革に対応していくことが求められているが、変革に対応するにあたり、特に「4つの危機感」とその欠如が浮き彫りとなっていると指摘する。
本稿では、本文の第1部「ものづくり基盤技術の現状と課題」の内容を中心に、日本の製造業の現状や主要な課題、課題解決に向けた取り組みなどを2回に分けて紹介する。前編では、4つの危機感の詳細とともに日本の製造業が直面する2つの主要課題について取り上げる。
製造業に忍び寄る4つの危機
2018年版ものづくり白書では、新たに全体を総括し、今後進むべき方向性を端的に示す「総論」を付け加えたことが特徴である。今回は特に4つの危機感を明確に示した。
(1)人材の量的不足に加え、質的な抜本変化に対応できていない恐れ
ものづくり産業では、人手不足が顕在化しており、ロボットやAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)の利活用や、生産性の向上に向けた人材育成の取り組みは急務だといえる。中でもデジタル変革に求められるスキルを身に付けている「デジタル人材」の圧倒的な不足が深刻だと指摘する。大きな変革期の中で、新たなビジネスモデルへの転換を含め、ビジネス全体を俯瞰して全体最適化を図る「システム思考」の強化がなければ、海外企業に対し、後れを取る恐れが高いという。
(2)従来「強み」と考えてきたものが、成長や変革の足かせになる恐れ
日本のものづくり現場では、取引先との長期的な関係と信頼関係を前提に、商品の企画開発段階からの「擦り合わせ」を重視し、取引先の高い満足度を得て存在感を示してきた。しかし、全て取引先に委ねてしまうという受動性が高いという裏腹の弱みもある。いわゆる“下請け根性”というものだ。一部の企業だけでなく日本のサプライチェーン全体で変革を目指さなければ、変革は実現されない。高い擦り合わせ力や顧客ニーズ対応力といった従来の「強み」が、成長や変革の足かせとなりかねないとものづくり白書では指摘する。
(3)大きな変革期の本質的なインパクトを経営者が認識できていない恐れ
現在進展するデジタル革新では、特に経営資源としての「データ」の重要性が著しく高まっている。諸外国では多くの企業がデジタル投資にまい進し、バリューチェーン全体の最適化に向けた競争を進めており、ビジネスモデルの転換による価値創出の動きも見られる。一方で日本では、必ずしもデジタル化のもたらす本質的な産業構造、社会構造へのインパクトが理解されていない恐れがある。特に中小企業の場合には、抜本的な変化の本質に気づいていない、あるいは気付かずに目を背けてしまうといった傾向も見られ、このままでは将来の致命傷となりかねないと危惧しているという。
(4)非連続的な変革が必要であることを経営者が認識できていない恐れ
これからの変革は、従来の成功体験の延長ではない「非連続」な取り組みが必要となる。しかし、どうしてもボトムアップ型の企業経営に依存する傾向から脱することができず、現実のアクションに結び付けきれていないことが多い。また、技術革新のスピード、課題の複雑化などが進む中、「協調」領域の拡大により、真の「競争」分野への投入リソースの集中を行うことが求められてきている。今後は、積極的に他者とつながり、価値を高めていく連携構築力こそが期待されるが、全てに「自前主義」にこだわれば、真の「競争」に参画する機会すら逸しかねないと指摘する。
「総論」では、このような危機感を共通認識として持ち、戦後培ってきた日本の強みをうまく生かしつつ、変革につなげていくことが不可欠であると説く。そのためには、新たな環境変化に対応した付加価値獲得の在り方、深刻化する人手不足の中での現場力の維持や強化といった経営課題を的確に把握し、目の前の経営課題の解決や、あらゆる変革への対応を積極的に進めることが求められているという。
2018年版ものづくり白書の第1部では、その実現に向けて直面している課題、さらには対応の必要性を取り上げている。
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