“ロボット犬”が工場設備の配置データを収集、フォード工場でライン改善に:産業用ロボット
Ford Motor(フォード)は2020年7月27日、“ロボット犬”によって製造設備の3D点群データを自動取得するパイロットプロジェクトについて発表した。同プロジェクトは米国ミシガン州のヴァンダイクにあるトランスミッション工場で実施している。
Ford Motor(フォード)は2020年7月27日、“ロボット犬”によって製造設備の3D点群データを自動取得するパイロットプロジェクトについて発表した。同プロジェクトは米国ミシガン州のヴァンダイクにあるトランスミッション工場で実施している。
ニーズの多様化やグローバル化などが進む中で製造業には多品種製品を効率よく作ることが求められるようになっている。そのため工場でも頻繁に製造ラインや設備の変更が行われるが、大きな変更である場合以外は現場の変更点を図面化できているケースは少ない。担当者などが変わった場合、現在の工場内の姿が把握できない状況が生まれ、ラインの変更や新設、新たな設備の導入などで不要な手間がかかるケースが多かった。
これらを解消するため、フォードがパイロットプロジェクトとして導入したのが、Boston Dynamics(ボストンダイナミクス)の四足歩行ロボット「Spot」である。「Spot」は、その動作が犬を思わせるため開発段階から“犬ロボット”として注目されてきたが、2019年9月に市場投入されている。
フォードではボストンダイナミクスから2台の「Spot」をリースし、その内1台を「Fluffy(フラッフィー)」と名付け、工場設備のデータ取得に活用している。「Spot」には、ステレオカメラが内蔵されており、奥行き情報を提供して3D点群データを生成することで、周囲をマッピングして障害物を回避することが可能である。4足歩行であるために階段の上り下りも行える他、狭いスペースや簡単な障害物でも乗り越えられるため、自律的に工場内を自由に移動して、設備情報を取得することが可能である。フォードではこの「フラッフィー」の背面にレーザースキャナーを搭載し、工場内の各設備のスキャン情報を取得。工場のリアルなデジタルモデルを生成することで、新製品および新ラインの立ち上げの短縮などを実現する狙いだという。
フォードのデジタルエンジニアリングマネジャーであるMark Goderis(マーク・ゴデリス)氏は「以前は施設内を歩き回り異なる場所に立ち寄りながら、三脚を使ってスキャンを行っていた。レーザーがスキャンするのを1回5分ほど待つことになるため、1つの工場をスキャンするのに2週間かかることもあった。フラッフィーのおかげで、今では半分の時間でスキャンできるようになった」と価値について語っている。また、以前の手法では、1つの施設のスキャンには30万ドル近くの費用が必要だったが、「フラッフィー」を使った新たな手法ではコストを数分の1に下げられるという。
現在は「フラッフィー」は特定の経路をたどるようにプログラムされており、タブレットアプリケーションを使って操作を行っているという。将来的には、遠隔操作を行い工場のミッションに合わせてプログラミングし、どこからでもすぐにレポートを受け取ることができるようになることを目指すとしている。
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