発売40周年のウォシュレット、「洗浄ノズルをくわえられるのか」にみる進化の魂:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(15)(4/4 ページ)
TOTOのヒット商品「ウォシュレット」が1980年の発売から40周年を迎えた。温水洗浄便座の代名詞として日本のトイレ文化に革命を起こしたウォシュレットだが、どのように開発され、これまで進化を続けてきたのだろうか。
マイクロ波センサーで“窓”をなくす
―― 「きれい除菌水」の他に採用した新しい技術はありますか。
松竹 温水洗浄便座と一体になったタンクレストイレの「ネオレスト」では、2017年モデルからマイクロ波センサーを採用しています。従来は、利用者の着座を検知するのに赤外線センサーや焦電センサーを用いていました。これらのセンサーに必要な“窓”は、デザイン面では良いものとはいえず、汚れがたまって掃除がしにくい原因になっていました。これに対してマイクロ波センサーは遮蔽物越しでも人体検知が可能なので、温水洗浄便座に付きものの“窓”が不要になり、良好なデザインと機能の両立につなげられています。
スタートアップなどとの連携でIoT活用へ
―― 温水洗浄便座は多くの競合製品があり、製品としてもほとんど完成の域にあると思います。それではこれから先、未来のウォシュレットはどういうものになるのでしょうか。
松竹 今はまだこれといった形になっていませんが、例えば健康管理ができるような機能を持たせることができるのではないかと考えています。そのためには、やはり当社だけではなく、新しい技術を持つ企業と連携していくことも必要になるでしょう。
他の取り組みとしては、2020年1月の「CES 2020」において、トイレットペーパーや洗面所の水石けんなどの消耗品を提供する米国のGeorgia Pacific Professionalとの協業で、トイレの使用頻度や消耗品の使用量などを管理するIoT(モノのインターネット)システムを出展しました。主に、空港や商業施設などのトイレのメンテナンス効率を向上するためのものですね。
2019年7月には、米国のスタートアップ企業であるGood2Go(グッド・トゥー・ゴー)に出資しています。同社の有料会員になれば、米国サンフランシスコのカフェなどのトイレを予約して使うことができます。デモンストレーションを兼ねて、キャンピングカーのようなトイレカーが市内を走っていて、アプリを使ってそれを呼べたりします。米国は公衆トイレの数が少なく、衛生面や安全面でも課題があるということが背景にあります。このように、スタートアップに出資するということも徐々にではありますが行っています。
IoTの活用という面では、競合他社と比べて先行しているとはいえないかもしれません。今後も、そういったIoTに強い企業と組んで取り組めないかと考えているところです。
日本人なら誰もが知るウォシュレット。現在、温水洗浄便座の普及率が8割越えというのも驚いたが、ウォシュレットが発売されてから40年の歴史の中で、普及率が半分を超えるまで20年かかったというのも驚きである。
思えば筆者も自分の家庭にウォシュレットを取り付けたのは、10年前ぐらいだったと思う。ホームセンターに温水洗浄便座コーナーができ、各社製品が比較できるようになってからのことだ。それまでどうして取り付けなかったかというと、既存の便座のフタというのが、自分で取り外しできるものだと思っていなかったということが大きいように思う。ウォシュレットは最初から後付け製品として開発されたが、あの一世を風靡したCMからは、既存の便器に付けられるというメッセージが伝わったとはいい難い。
いわゆるウォシュレット文化は日本独自のもので、海外では意外に普及していないという印象だ。これまでの経験では、中国やハワイのホテルにはあるが、CESなどが開催されるラスベガスでは、高級ホテルでさえまだまだ普及していないのが現実である。それでも個人宅向けでは富裕層を中心に徐々に広がりをみせているところだという。
トイレというのは、各国の文化に深く根ざしている設備だ。とはいえ、お湯でお尻を洗う快感というのは、人類普遍の感覚であると信ずる。世界中どこに行ってもウォシュレットがあるという状況は、何十年も先ということではないのかもしれない。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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