発売40周年のウォシュレット、「洗浄ノズルをくわえられるのか」にみる進化の魂:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(15)(3/4 ページ)
TOTOのヒット商品「ウォシュレット」が1980年の発売から40周年を迎えた。温水洗浄便座の代名詞として日本のトイレ文化に革命を起こしたウォシュレットだが、どのように開発され、これまで進化を続けてきたのだろうか。
「ワンダーウェーブ洗浄」と「きれい除菌水」
―― 私は自宅でウォシュレットと他社製の温水洗浄便座を使っているんですが、やっぱりウォシュレットは水流が細くてパワーがあると感じるんですよね。そういった、温水洗浄便座としての使い心地や快適さの面でも多くの工夫があるのではないでしょうか。
松竹 当初のウォシュレットはお湯をためておく貯湯式が高級機でした。これはなぜかというと、瞬間的にお湯を沸かす瞬間式だと、家庭の電気容量の上限である約1200Wに対して作れるお湯の量にも制限があるからです。お湯が少ないと洗ってる感も少ないということで、高級機は多くのお湯を用意できる貯湯式だったわけです。
ただし貯湯式の欠点としては、大きなタンクが必要なことと、お湯を沸かしてためておかなければならないので電気代がかかることでした。また、お湯を使い切ってしまうと、結局のところ水しか出なくなるという問題もあります。それらの問題を解決するために開発したのが「ワンダーウェーブ洗浄」です。
ワンダーウェーブ洗浄では、お湯を直線で続けて出すのではなく途中を間引きしています。これによってお湯の量自体は少なくても洗った感じをたっぷりにできるのではないかと想定しました。間引きしていない部分の玉状になっているお湯を、1秒当たり約70発ぐらい出すことでお湯の総量を節約しつつ、玉状になっているお湯でたっぷり感もあります。この技術は、1999年に製品化したのですが、それ以降の高級機は瞬間式とワンダーウェーブ洗浄の組み合わせが基本になりました。
1997年の高級機「ウォシュレットGA」(左)と2018年発売の高級機「ウォシュレット アプリコット F」(右)。ウォシュレットGAは貯湯式だが、1999年に投入したアプリコットからは高級機にワンダーウェーブ洗浄と瞬間式を採用している(クリックで拡大) 出典:TOTO
―― その他、TOTOにしかないと言えるような技術はありますか。
松竹 2011年から採用している「きれい除菌水」という技術があります。温水洗浄便座を使わない方にお話を聞いた際に「温水を出すノズルが清潔かどうか分からない。特に外出先などでは使いたくない」という意見がありました。われわれとしては、発売3年目の1983年には、既にノズルのセルフクリーニング機能を搭載していたんですが、アンケートを取ると「それだけでは信用できない」「本当にきれいかどうか分からない」という回答がなくなることはありませんでした。
「使う前も使った後もノズルを洗っているのに、なぜダメなんだろう……」っていう話を会議で出した時に、女性の技術者が「いやあなた方そんなにきれいきれいと言うなら、ノズルを口にくわえることができますか」と言われまして。「いや、それはちょっと……」となるわけですが、その後に「そうか、そういうことか」という気付きを得ました。
そこで洗うだけじゃなくて、徹底的に除菌もしようじゃないかと。当社では、もともと「ジアテクト」という、尿石などを防ぐ機能を持つ、いわゆる「機能水」を作ることのできる製品がありました。駅のトイレ、特に小便器向けに、定期的に除菌機能を持たせた水を流すことによってきれいな状態を保つためのものです。
この機能水は、水道水の中にある塩化物イオンを電気分解して、次亜塩素酸濃度を高めて除菌することができます。ただし、公衆トイレに付けることを前提としているので装置自体が大きかった。
そこで、この機能水の装置をウォシュレットに組み込めるようにもっと小型化できないかということで新たに開発を進めて、USBメモリぐらいのサイズまで小さくしました。これによって、使用後にノズルの中と外を除菌し、一定時間使用しない場合も除菌するようにしたのがきれい除菌水です。その後、ノズルだけではなく、便器の内側にも除菌水を噴射して、便器の汚れを抑制する機能も搭載するようになりました。
このように、消費者の皆さまがウォシュレットを使う上での精神的な障壁を少なくしようという取り組みを続けています。
―― なるほど。われわれ一般消費者は、このコロナ禍の中で初めて次亜塩素酸水なるものを知ったんですが、それよりはるか以前からウォシュレットでは普通に使われていたんですね。
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