帝人が研究開発でDX推進、日立との協創でマテリアルズインフォマティクスを加速:研究開発の最前線
帝人と日立製作所は、帝人の新素材の研究開発におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に向け協創を開始すると発表した。帝人は同年2月に発表した「中期経営計画2020-2022」でデータ利活用による素材開発の高度化を掲げており、今回の日立との協創はその一環となる。
帝人と日立製作所(以下、日立)は2020年7月20日、帝人の新素材の研究開発におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に向け協創を開始すると発表した。帝人は同年2月に発表した「中期経営計画2020-2022」でデータ利活用による素材開発の高度化を掲げており、今回の日立との協創はその一環となる。
帝人と日立は、日立のデジタルソリューション「Lumada」や技術を活用し、各種データの一元管理が可能な「統合データベース」の構築を進めるとともに、蓄積したシミュレーションデータや実験データの分析などによって新素材開発を促進するマテリアルズインフォマティクス(MI)の取り組みを加速させる。また、研究者間で研究手法やノウハウを最大限利活用するためのサイバーフィジカルシステム(CPS)の共同構築なども行う。これらの取り組みによって、新たな研究知見の獲得や迅速な新素材の研究探索を可能にするなど、研究開発のさらなる高度化、効率化を目指す。
DX推進に向けて構築するシステムは大まかに分けて2つある。1つは、研究開発の業務プロセス変革を実現する統合データベースだ。この統合データベースでは、これまで利用可能な状態で収集できていなかった研究者の知見やノウハウ、実験データなどを可視化するとともに、利用しやすい形で構造化するなどしていき、MIの実行に不可欠となるデータ生成・整備を支援し、新素材の開発を加速する。
まず、研究者と技術の関連性を社内技術情報や社外の特許情報などのテキストデータを基にテキストマイニングを用いて加工・抽出し、蓄積する。「誰が何を知っているのか」「どこにどんな業務の経験者やエキスパートがいるのか」といった、研究者と技術の関係性を可視化し、人的リソース情報を統合データベースで一元的に蓄積・検索できるため、業務の効率向上に寄与するという。
また、実験データを管理する機能により、実験室や分析室など複数箇所で生成する実験データや実験条件などのメタデータの関係をひも付け、データを構造化し、統合的な実験データの解析を支援する。単語抽出AIも組み込んで、特許公報から材料開発に必要なデータや図表データを自動で高精度に抽出することも可能にする。さらには、AI(人工知能)を使って電子顕微鏡などの画像から素材の成り立ちなどを捉えられる形態指標を抽出する機能を提供し、データの意味付けや解釈の定量性をより高めることを目指す。
なお日立は、この統合データベースとLumadaの1つである「材料開発ソリューション」を連動させ、手軽な操作でAIなどを活用したデータの多角的な分析や3次元でのグラフィカルな可視化が可能になる分析環境を提供する。MIの実績を有する日立のデータサイエンティストによるきめ細かな分析支援も行い、MIを用いた開発手法の確立や新素材の開発を加速し、素材開発に役立つデータの取り扱いに長けた人財の育成にも寄与するとしている。
もう1つのシステムは、研究者・組織間の情報共有と利活用を活性化する「R&Dポータルサイト」だ。統合データベースに蓄積された情報や、各部署の技術・ノウハウを見える化することで、研究者と部署など、人や組織・技術の関係性をひも付け、研究開発の効率向上、開発スピード向上につなげる。
チャット機能の採用により、研究者同士のコミュニケーションの活性化も期待できる他、社内外の会議でのやりとり(音声データ)を自動的にテキスト化する機能も取り込み、議事録など書き起こしにかかる時間を削減するなどして、R&Dポータルサイトからの迅速なノウハウ共有が可能となる。
また、研究者がその研究活動で得た知識(暗黙知)を効率よく整理し、その知識を起点にした新たな着想を示唆するなど、統合データベースに記録された研究データをAIで分析し整理・着想をガイドする機能の検証を行い、研究成果のさまざまな分野での応用やさらなるイノベーションの加速を支援するという。
なお両社の協創では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって変化する生活様式や企業活動に対応した“ニューノーマル”の時代で求められるデジタル化の潮流を捉え、データ駆動型の研究開発の加速に向けた新たな枠組みも検討していくとしている。
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