「タイヤを売るだけでは生きていけない」ブリヂストンが抱える“強烈な危機感”:製造業がサービス業となる日(2/2 ページ)
ブリヂストンは2020年7月8日、第3の創業(Bridgestone 3.0)として2020〜2030年を対象とした中長期事業戦略構想を発表した。タイヤ事業をコアと位置付けつつも、タイヤを取り巻くデータなどを活用したソリューション事業に大きく舵を切る方針を示した。
デジタルを軸にソリューションビジネスを大きく拡大へ
これらの環境変化を踏まえ、現在の主力であるタイヤ・ゴム事業をコアとしつつ、タイヤから得られたデータをベースとした“価値”を売るタイヤセントリックソリューションと、タイヤデータをシステム化したものを組み合わせた“システム価値”を売るモビリティソリューションを、新たな成長領域として伸ばす位置付けを明確化した。
「あくまでもタイヤ・ゴム事業を核として位置付け、収益性を確保していくことは変わらない。ただ、タイヤ・ゴム事業の知見をベースとしたソリューションを拡大していく」と石橋氏はビジネスモデルについて語る。
これらのビジネスの中では、現状ではタイヤ・ゴムのモノ売りビジネスが中心で、ソリューションビジネスの割合はまだまだ小さい。ソリューションビジネスの中では大きなものでも、タイヤセントリックソリューションの1つであるTBリトレッド(タイヤ交換ではなくタイヤ表面のトレッドを交換するリユースサービス)事業が1000億円程度だという状況だ。「ソリューションビジネスの割合はまだまだ小さいが、今後の競争力に変えていく。現状では既存のビジネス内に組み込まれたものもあるので、正確な数値については精査を進めているところだ。2021年初に今回の中長期事業構想を計画に落とし込んだ中期計画を発表予定で、それまでにソリューションの中身を数値に落とし込む予定だ」(石橋氏)。
成長のカギを握るタイヤセントリックとモビリティソリューション
今後の成長のカギを握るタイヤセントリックソリューションビジネスは、タイヤデータを取得しデジタル基盤により、これらのデータを製品にフィードバックしたり、顧客サービスに生かしたり、適切なメンテナンスを行ったりするビジネスモデルである。
現状で既にビジネスとして動いているのが、買収したbandagなどを中心としたTBリトレッド事業とサブスクリプションサービス「MOBOX」を中心としたタイヤと車両メンテナンスのサブスクリプションモデルである。タイヤそのものを売るのではなく、タイヤのメンテナンスをサービスとして受け取るビジネスを構築する。
さらに、これらのタイヤセントリックソリューションのデータ基盤をベースとし、タイヤ・ゴム、タイヤデータ、モビリティデータを組み合わせてシステム価値を提供するのがモビリティソリューションビジネスである。さまざまなMaaSによるモビリティデータとタイヤデータを組み合わせることで新たな価値を創出するというものだ。「モビリティソリューションを新たな競争領域と位置付け、広いスコープで取り組んでいく」(石橋氏)。
核となるのが、フリートソリューションである。2019年に買収したWebfleet Solutionsを中心に欧州を中心にビジネスを広げているが、今後は同社のノウハウを水平展開しグローバルで同様のビジネスを拡大していく方針である。現状では、EUや南アフリカ、オーストラリア、メキシコ、チリでWebfleet Solutionsがビジネスを展開しているが、北米では別組織でフリートソリューションビジネスを展開する予定。日本では展開の検討を進めているところだとする。
これらのソリューションビジネスを支える技術開発基盤も整備する。タイヤデータの解析やモノづくりの技術力を磨く小平技術センターに、Bridgestone Innovation Parkを2020年9月にオープンさせる他、北米ではMobility Lab、欧州ではDigital Garageを用意し3拠点で技術基盤の開発を進めていく。また、国内でタイヤの卸売り販売を担ってきたブリヂストンタイヤジャパンを2020年10月にブリヂストン・タイヤソリューション・ジャパンへと改称し、卸販売事業とソリューション事業の2事業体制とし、ソリューションビジネスを本格的に成長させる計画だ。
ソリューションビジネスの展開について石橋氏は「コアコンピタンスはあくまでもタイヤ・ゴムに関わる技術や知見だ。温度や環境により変化が大きなゴムを極めるのは難しい。そうしたタイヤの製造のノウハウやデータを持つというのは大きなことだ。タイヤのデータを生かせるというのが、ソリューションビジネスでも強みになる」と語っている。また、今後の成長に向けて「M&Aや提携は随時検討していく。ブリヂストンは買収によりポートフォリオを拡大してきた歴史がある。今後ソリューションビジネスの成長に向けて必要があれば、積極的に検討していく」と石橋氏は述べている。
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